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アーカイブ サンデー毎日 倉重篤郎のニュース最前線 2025/07/06 重 篤郎
倉重篤郎のニュース最前線 トランプ大統領が世界秩序を揺るがす 今こそ対米追随の転換を 田中均が激震の時代に憂国提言
「イスラエル自衛権」の拡大解釈が遠因/日中韓で信頼醸成の枠組作りが必要/関税協議での朝貢姿勢は日本の国益にならない
イスラエルによるイラン爆撃、イランの反撃、アメリカによるイラン攻撃、そして停戦。国際紛争のわずか10日あまりでの目まぐるしい展開と未来をどう見るか。激震時代に日本が取るべき針路とは。田中均元外務審議官が知見を総動員して事態に対峙する。
トランプ米国によるイラン攻撃・停戦工作である。イスラエルが6月13日に開始した対イラン攻撃を支援する形で、22日に突然イラン核施設3カ所を空爆したが、2日後にはSNSで「停戦合意」を発表、イスラエル、イラン双方が「勝利宣言」を出すことで、戦闘は鎮静化したように見える。
停戦は果たしていつまで続くのか。中東をめぐる力関係はどう変わっていくのか。疑問は尽きないが、なぜトランプが一連の軍事・停戦オペレーションを断行したのか、その動機と背景が気になる。いろんな解説がある。曰(いわ)く。「イランの報復行為が限定的、自制的になることをあらかじめ読んでいた」。また曰く。「ネタニヤフがイラン核施設撲滅の最終手段として核を使用するのを防ぐため、イスラエルが懇請してきたB2ステルス爆撃機による地中貫通弾『バンカーバスター』投下に踏み切った」
トランプ本人の口からも漏れてきた。「広島や長崎の例を使いたくはないが、あの戦争を終わらせた点で本質的に同じだった」。オランダ・ハーグの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でルッテ事務総長と会談した際、一部がメディアに公開され、記者団の質問に答えた。戦闘終結のためにはより大きな力で相手を叩きのめし、戦意喪失させる。原爆投下をも正当化する論理である。被爆国のメディアの一員としては聞き捨てならぬ一言ではあるが、これが本音なのだろう。
ただ、私がその場にいればトランプにこうも聞いてみたかった。「今回のイラン攻撃と、あなたが『TACO(タコ)』呼ばわりされていたこととの関係は?」
さらにもう1問。「攻撃して2日後の停戦は、ウクライナ、ガザと、大統領就任後ただちに戦争を止めてみせるとの公約が実現してこなかったことに対するエクスキューズ(釈明)と実績作りではなかったのか」
「TACO」とは、「Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビってやめる)」の略。英紙フィナンシャル・タイムズのコラムニストが5月2日付の紙面で、二転三転のトランプ関税政策を分析した際の造語だ。投資家がこの政策の揺れを利用して利益を得る「TACOトレード」を生み出し、ウクライナ、ガザという二つの戦争終結に向け、プーチン、ネタニヤフを抑え切れない点もまた「TACO」的だと世界的規模で人口に膾炙(かいしゃ)していた。
もちろん、トランプには気に入らない称号だ。5月28日に記者からTACOについて尋ねられ「その発言は絶対に口にするな。最も不快な質問だ」と憤慨した。それからイラン攻撃まで1カ月弱。その動機に「TACO」の汚名挽回という要素がなかったかどうか。
そして、停戦実績作り。これもまた異例の展開だった。イラン攻撃が現地時間の22日未明で、48時間後にSNSに「停戦合意された」と発表、その7時間後に停戦発効を表明した。なぜこんなに急いだのか。戦争を嫌うトランプ支持層のつなぎとめと、停戦に導いた自らの手腕を誇示したい思惑が読み取れる。ただ、これは明らかにマッチポンプである。自ら火をつけて消す。児戯的なものを感じる。政治力、軍事力ともに世界最強の米国にしかできない業でもある。しかし、火をつけられ…
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