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    アーカイブ フェロー・早田 秀人 エッセイ「思索の散歩道」 2024/05/27
    エッセイ「思索の散歩道」
    直訳と意訳
     言葉は〝生き物〟です。生き物である以上、常に変化を伴うと覚悟しなくてはなりません。ある国の言葉を自国の言葉として受け入れるには、その時の社会動向や流行など十分理解した上で〝翻訳〟しなければ、その言葉が持つ本当の意味を理解することはできません。
     2016年の流行語大賞に広島カープの緒方監督が発した、〝神ってる〟という言葉がその年の流行語大賞に選ばれました。この〝神ってる〟を〝神がかり〟と 考え、英訳すると「God's influence」となるでしょうか。
     ただ、この言葉が生まれた背景を考えると「God is on his side.」あるいは「He is blessed.」と訳すのが適切と考えらます。(中略)
     ところで、洋画の字幕はその映画の「善し悪しを決める」といっても過言でもありません。名訳で有名なのが、1943年に制作された「カサブランカ」です。
     第二次世界大戦中、フランス領モロッコのカサブランは、ナチスドイツの侵略による戦火から逃れるため、中立国ポルトガルリスボンを経由してアメリカへ亡命しようとする人々でごった返していました。
     戦時下のパリで出会ったリックとイルザは恋に落ちます。シャンパンで乾杯する時のセリフが「Here's looking at you, kid.」というセリフ。直訳は「君を見つめて乾杯」ですが、これを「君の瞳に乾杯」と〝キザ〟な名訳をしました。パリがナチスに占領される前に、リックとイルザは脱出を決めマルセイユから船でカサブランカへ逃れることを約束し、リックは「マルセイユで結婚しよう」『Let's get married in Marseille.』とイルザに求婚します。イルザは「そんな先のことは」『That's too far ahead to plan.』と応じ『I love you so much・』「幸せすぎて怖い」と続けます。このセリフも直訳すれば「とっても愛してるわ」ですが、戦時下でナチスに追われた二人の境遇を考えると、「・・・怖い」と言わせた背景がよく理解できます。(高瀬鎮夫訳)
     イルザはナチスの強制収容所で殺されたと知らされていた夫ラズロが生きていたことを知り、激しい葛藤のすえ、リックの待つ約束の場所に行くことが出来なかったのです。
     一人モロッコに渡ったリックは、二度と会うこともないと思っていたイルザと、偶然自分の店で再会します。
     イルザとラズロはナチスに追われていました。リックとイルザは再び愛が燃え上がるのを感じながら、イルザのためにリックは身の危険を顧みず、逃亡の手はずを整え、イルザとラズロをリスボン行きの飛行機に乗せ、万感の思いを胸に見送ります。この映画は第二次世界大戦中に作られ、ラブロマンスにこと寄せた、反ナチスのプロパガンダ映画として今に語り継がれています。
     英語に限らず外国語を日本語に訳す場合も、反対に日本語を外国語の訳す場合にも〝言葉は生き物〟ということを承知したうえで、互いの国の歴史や社会情勢、そして何よりも暮らしと生活を反映した言葉を〝掴みだす〟ことこそ不可欠だと思います。



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