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    アーカイブ フェロー・早田 秀人 エッセイ「思索の散歩道」 2024/06/03
    エッセイ「思索の散歩道」
    真意が見えない政治家の言葉
     昨今、政治家が国会での質疑や記者会見で、頻繁に使う言葉があります。政治家の言い回しは、聞いていると分かりにくいという印象が拭えません。代表的な言葉に「しっかりと」があります。「しっかりと○○します」とか。これだけ聞いていると「そうかやってくれそうだな」くらいの印象を持てますが、「はて?」何をどうやって、どこまでやってくれるのだろうという疑問が残ります。
    「しっかりと」とは「物事の基礎・構成が安定していること」や「性格・考えが堅実で信用できること」などを意味する言葉ですが、それとは裏腹に、やるべきことを明確にしたくない場合や、主張が明確になっていな時に使われています。
    「財源をしっかり確保・・・」「議論をしっかり積み上げて国民の理解を・・・」等々は、記者会見や国会での質疑で常套句になっています。政治家が「しっかり」職務を果たすのは当然で、強調したければ具体的な中身をもって使うべきであり、本人の自己満足のために言葉だけを何となく取り繕って使っているのでは私たちの心に響きません。
     同じ類に「緊張感をもって」「スピード感をもって」「きちっと」「あらゆる事態を想定し」など、真意が不明なフレーズが乱発されています。
     政治家の「今後は緊張感をもって、スピード感をもってしっかりと対応して参りたい」と言う言い回しは、野党から追及を受けたり、記者から突っ込まれた時の常套句なっています。
     また、歴代の首相の所信表明演説などで、「戦略的」という言葉をよく耳にすることがありますが、中でも「戦略的思考」、「戦略的パートナーシップ」など、“戦略”の乱用が目立ち、聞く度に「具体的に何を意味するのだろうか?」と、疑問を覚えます。
     戦略とは、「特定の目的を達成するために、長期的・大局的視野に立って政策を立案・遂行すること」であり、日本の向かうべき将来の姿と目標を掲げ、国民が共感できる「ビジョン」を描くことが戦略の原点です。ビジョンに対して中長期の視点に立ち、実現すべき目標を定め達成するための方策を決めます。これが戦略です。政治家は、果たしてこの意味を理解して演説に思いを込めているのでしょうか。
     京セラの創業者・稲森和夫さんは、ビジョンを「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」としています。
     政治に置き替えてみると、日本のリーダーが国民の共感を呼び、心に響くビジョンを訴えたという記憶がありません。政策と称する様々な方策がなんの目標に向かうためなのか、その政策の行き着く先の、国全体の姿がイメージとして湧いてこないと言っても過言ではありません。
     1961年1月に就任したアメリカのケネディー大統領は、就任演説で「アポロ計画」を打ち出しました。まず大きな目標として「1960年代中に人類を月に立たせる」を掲げ、「現在の人類が挑戦しうるミッションの中で最も困難なものであり、であるがゆえにこの計画の遂行によってアメリカおよび人類にとっての新しい知識と発展が得られる」と続け、なぜチャレンジするか明確にしたうえで、実現するために「民間、政府を問わず、横断的にアメリカの科学技術と頭脳を総動員して最高レベルの人材、機材、体制を整える」と国民に訴え、共感と感動を与えました。
     政治家は大局的な世界観と歴史認識に基づいたビジョンを掲げ、国民が共感し支持できる国家の「ビジョン」を掲げなければなりません。言葉の使い方で大切なのは、自分の意思や考え方を明確にし、具体的に何をしたいかを自身の言葉で伝えることであり、余計な修飾語は曖昧さを助長するだけで、結果的に不信感を増幅することになります。政治家は勿論、私たちも言葉の持つ真意を理解し、正しい使い方をしなければなりません。この視点に立って今の政治家の在り様をみると、政治そのものが世襲化、職業化し政治家とは程遠い〝政治屋〟に堕した感が否めません。
     松下電器創業者の松下幸之助は「国民はみずからの程度に応じた政治しかもちえない」そして「政治理念の確立なくして力強い政治は生まれない」と訴え「松下政経塾」を創立し時代を担う政治家の育成に力を注ぎました。私たちも政治に対して真摯に向き合い政治に参加しなければなりません。



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