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    アーカイブ フェロー・早田 秀人 エッセイ「思索の散歩道」 2024/08/19
    エッセイ「思索の散歩道」
    エキュメノポリスとバベルの塔
     ポリスとは「都市」「都市国家」「市民権」または「市民による政体」を意味するギリシャ語です。古代ギリシャの都市国家は紀元前9世紀から同8世紀にシュノイキスモス(集住)が発展して成立し、丘の上の神殿(アクロポリス)を中心に公共広場(アゴラ)のある都市部と周辺農村部から構成されています。ギリシャのポリスは紀元前6世紀~同4世紀に全盛期を迎えます。
     その後、人類のポリス(=都市)は面積、人口、機能の拡大を続け、隣接する都市と連結、巨大な都市域を形成していきます。フランスの地理学者として著名な、ジャン・ゴットマンは、このように形成された空間を「メガロポリス」と命名しました。
     人類は単独で生活するよりも仲間と協力したほうが安全に暮らせると考え、個人が集まって仲間を作り集団生活を営み、集団は村から街、そしてメガロポリスへと発展していったのです。ミクロな存在がどんどんマクロになっていったわけです。
     ポリスがメガロポリスへ変容していったのは人の交流に伴う情報通信、陸海空交通規模の拡大による必然だと思えます。
     では次に現れるポリスはどのような形態になるでしょうか。ひとつの可能性として、「エキュメノポリス(多核的広域都市)」へ変容していくという説があります。「エキュメノポリス」はひとつの都市にすべての管理機能を集中させず通信・交通網で結ばれる複数の都市に分散させて広域都市を形成します。
     これまでの“集団”は共通する価値観を持った仲間が集まって大きくなっていきました。「あなた」の周りには「家族」がいます。たくさんの家族が集まって「町」になり、町が集まると「県」になって、県が集まると「日本」ができます。日本では北海道でも沖縄でも日本語という同じことばが通じ、コンビニでは過不足なく同じものを買うことができ、国内を自由に行き来することができます。そのように考えれば、日本という「国」もひとつのメガロポリスと見ることができるでしょう。
     際限もなくマクロ化する“ポリス”が次の段階となるであろうとは明白で、現在飛行機や豪華客船を利用して世界の国々を自由に行き来できるようになり、インターネットで世界中とつながることも可能な世界は、まさにエキュメノポリスとして連続したひとつの都市と見ることができると思います。
     しかしポリスの重要な要素として“共通する価値観”があるとするなら、エキュメノポリスにおける“共通する価値観”とはなんでしょうか? 1948年に設立されたWCC(世界教会協議会)はエキュメニカル運動(世界教会一致運動)を提起しました。運動は全世界のキリスト教会が一致団結して全人類救済のために働こくことを目指すものでした。昨今、世界は混迷の中にあり、精神の劣化から生じる相互不信と憎しみが蔓延していますが、多様な言語、慣習、価値観、宗教、人種をひとつにまとめることは不可能です。この難問を解決しエキュメノポリスを成立させる“鍵”となるのはなんでしょうか? 少なくとも宗教はこの役割を果たせていません。
     私たちが目指す“エキュメノポリス”のさらなる発展には、この“鍵”を見つけ出すことが不可欠です。
     ところで、「バベルの塔」は、人間がさまざまな言語を話すようになった原因が描かれています。「ノアの方舟」のノアの曾孫であるニムロド王は神に対する復讐として再び人類が大洪水に見舞われることがないよう、神の領域である天まで届く塔を建築しようとします。しかし、人間の不遜や驕りに怒った神により、人間はさまざまな言葉を話すようになり、意思疎通ができなくなった結果、塔の工事は中断されてしまうのです。以後、同じ言葉を話すグループごとに人々は世界各地へと広がりました。
     ニムロド王がとった行為は、エキュメノポリスにとって人間の不遜や驕りがないようにしなければいけないという暗示のようにも思えます。



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