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    アーカイブ フェロー・早田 秀人 エッセイ「思索の散歩道」 2024/09/27
    エッセイ「思索の散歩道」
    「民主主義の崩壊」を招きかねない若ものの“参政権放棄”
     国民の3大権利とは、生存権、教育を受ける権利、そして参政権の3つですが、2023年8月6日に行われた埼玉県知事選挙は、「参政権の意味」を問う貴重な事例となりました。現職と新人の3人による選挙戦が繰り広げられた結果、現職知事が再選を果たしましたが、投票率は23・76%と極めて低く、76%強の有権者が参政権を放棄した格好となりました。
     国政選挙でも、低い投票率の傾向は改善されていません。2021年(令和3年)に行われた衆議院選挙では55・93%、2022年(令和4年)に行われた参議院選挙では52・05%といずれも低調でした。
     投票率を年代別に見みると、衆議院選挙では10歳代43・21%、20歳代36・50%、30歳代47・12%、40歳代55・56%、50歳代62・96%、60歳代71・43%、70歳以上61・96%となっており、参議院選挙においても同様の年代区分で35・42%、33・99%、44・80%、50・76%、57・33%、65・69%、55・72%と、有権者のほぼ半数が参政権を放棄した格好になっています。
     二つの選挙に共通した特徴は、若ものの投票率が低く、高齢者の投票率が高いことです。若ものの投票率が低い理由として考えられるのは、既存政党の〝同工異曲〟〝大同小異〟的な争点の見えない政策など、政治への不信感・無関心にあると言っても過言ではありません。
     2016年(平成28年)12月、総務省が行った選挙に対する若ものの意識調査によると、家族と政治の話をすることのある若ものは全体の36%、友人と政治の話をする若もの者は26%で、若ものの政治への関心の低さがこうした数字から読み取れます。
     選挙に行かない理由として「投票所に行くのが面倒」「選挙に関心がない」「どの候補者に投票すればいいか分からない」「選挙で政治は変わらない」「自分が投票したところで何も良くならない」といった回答があり政治に対する関心が低いことが明らかです。
     因みに、ヨーロッパの国政選挙における若ものの投票率をみると調査年度により多少の差異が見られるもののスウェーデンの80%を筆頭に、ドイツ約70%、イギリスは65%となっており、日本の実態と大きな差があります。若ものの政治に対する意識の差は学校教育にあるようです。特にスウェーデンの場合、小学6年生から社会科のカリキュラムで投票に行く意味や、自分の意見を社会に反映するために政治に目を向け、デモや集会に参加することの大切さを学んでいます。しかも、高校生の提言が国の政策に反映される事例も少なくありません。
     若ものが選挙に行かなければ、立候補者は高齢者向けの政策を訴えることになり、投票率の高い高齢者優先の政策を掲げることになります。例えば、高齢者が医療・福祉の充実を訴えれば、関連する政策を推進する議員が当選する結果になります。もちろん、医療・福祉の充実は重要課題の一つですが、費用は若ものや働く世代の税金からも捻出されることになります。若ものが参政権を放棄することは、将来にわたる若もの層に対する政策の減少や負担の増加につながります。その結果、政治不信を招き、投票率が低下する負のスパイラルが日本の民主主義の根幹を揺るがすことなります。投票率は、民主主義がうまく機能しているか否かを測る重要な指標の一つです。
     参政権には被選挙権がありますが、議員に立候補するには衆議院では25歳以上、参議院で30歳以上と制限があるうえ立候補する際には供託金が必要となります。衆議院選挙区で300万円、比例区で600万円、地方選挙でも知事選挙で300万円、その他の自治体の選挙においても15万円から240万円が必要で、この供託金は選挙で一定の得票数を確保できない場合には、国に没収されます。年齢制限と供託金制度は立候補しようとする若ものの足かせになっていることは否めません。スウェーデンでは、選挙権と被選挙権ともに18歳で、高校卒業後、政治家になることは珍しくありません。また、日本のような供託金制度はなく、仕事を兼務しながら政治家になることも稀ではありません。
     2020年の徳島市長選で無所属新人の内藤佐和子さん(36歳)、2023年には京都府八幡市長選で全国で史上最年少の女性市長となった川田翔子さん(33歳)が、ともに“無所属”で当選したニュースは「世襲議員が蔓延」し「カネの問題が解消しない」政治制度へ風穴を開ける一歩となることが期待されます。現行の政治制度を見直し、「投票しやすい」「参加しやすい」制度に改正することが急務です。
     2023年に来日したフランス国民議会の下院議長ヤエル・ブロンピベさんは、高校生に向けて「あなたたちも政治に参加すべきだ。政治は日常生活に関わるのだから、政治家に任せることではない。われわれ政治家がいま決定することは、20年、30年、50年先の未来を左右する。それはわれわれが死んだ後のことだ。あなたたちの意見を聞かずに決定するのはよくない」(ニューズウィーク誌)と語りかけていました。
     山口県宇部市には、児童数21名の市立小野小学校があります。学校のある山あいの地域で子どもたちが地域の将来を真剣に考え、5年生のある児童が市長へ“直訴”したことをきっかけに、候補者となる4名の市議会議員、選挙管理委員会、教育委員会、地元の人たちが協力し合って「こども選挙」が実現しました。「こども選挙」とはいえ、実際の選挙と同じ公民館に投票所が設けられ本物の投票箱に票を投じました。
     「より良い宇部市にするために取り組んでいくこと、小野地域を含めた宇部市北部のために取り組んでいくことを候補者4名(市議会議員)がテーマに沿った政策について、児童に分かりやすく語りかけ、児童からの質問に答える演説会を行いました。すべての児童がだれに投票するかを悩んだ末に、期待する候補に一票を投じました」(2023年12月26日・NHK「政治マガジン」)
     市長に直訴した児童、それを真摯に受け止めた市長、実現に向けて協力した大人たち、まさに「政治に参加する意味」を〝生〟で学ぶという教育の原点を垣間見ました。
     私たち一人ひとりが民主主義を支えているという意識を持ち、選挙の際に〝候補者を見る目〟を養い、日本の将来を見据えた一票を投じなければなりません。



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