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    アーカイブ フェロー・早田 秀人 エッセイ「思索の散歩道」 2025/06/20
    エッセイ「思索の散歩道」
    生体恒常性と社会生態学
     私たちは、気温・湿度、風雨などの気象、地震、台風、火山噴火など大小さまざまな災害をもたらす自然環境の変化に晒されながら暮らしています。
     地球温暖化による洪水、干ばつ、山火事などの自然災害、はたまた、感染症パンデミック、日常的に起こる交通事故などの人的災害に対して現代文明社会は、脆さを露呈しています。
     これら環境の変化に、私たちは軽重の程度、時間の長短など様相には濃淡がありますが、慎重になる、畏れる、負けないぞと頑張るなど“心の持ちよう”で先ず対応します。同時に、外界からの刺激による身体の生理的変化に対して、人体は体温や血糖値、血中酸素濃度などの生理状態を一定範囲内に調整する、生体恒常性機能(ホメオスタシス;Homeostasis)を備えています。
     ホメオスタシスについて、神経系(自律神経)、内分泌系(ホルモン)それに免疫系を加えた相互作用により生体恒常性が維持されると考えられています。
     例えば自律神経は、生命を維持するための呼吸・心拍・血圧・体温・発汗・排尿などの働きを制御する役割を担い、身体機能を調節しています。外的・心的なストレスが要因で自律神経が失調すると、ホルモンバランスの乱れから、食欲減退・月経性欲異常・減退などの様々な症状が起こります。また、免疫力の低下によって感染症などにも罹りやすくなります。
     ホルモンは脳下垂体、甲状腺、副腎、膵臓、卵巣、睾丸などの内分泌腺から分泌され、身体の成長を促し、正常な代謝の維持、消化液の分泌調整など、生体を健全な状態に維持する様々な機能を調節する働きがあります。血圧や血糖値、カルシウム濃度、尿酸値などが正常な範囲から外れてくると、“情報”が神経系を通して脳の視床下部に伝えられ、指令が脳下垂体を経由して体内の各部内分泌腺に送られます。
     視床下部は「間脳に位置し、内分泌や自律機能の調節を行う総合中枢である。ヒトの場合は脳重量のわずか0.3%、4g程度の小さな組織であるが、多くの神経核から構成されており、体温調節やストレス応答、摂食行動や睡眠覚醒など多様な生理機能を協調して管理している。中脳以下の自律機能を司る中枢が呼吸や血液循環、発汗といった個別の自律機能を調節するのに対し、視床下部は交感神経・副交感神経機能や内分泌を統合的に調節することで、生体の恒常性維持に重要な役割を果たしている。系統発生的には古い脳領域であり、摂食行動、性行動、攻撃行動、睡眠といった本能行動の中枢である(脳科学辞典)」という働きを持つことが明らかになっています。
     免疫は、細菌やウィルスなど様々な病原体の侵入から生体を守り、健康な身体を維持する機能で、神経系や内分泌系と密接な関係にあることがわかっています。感覚神経など求心性神経が活性化されると、脳のホルモン中枢や視床下部などが刺激され、ホルモンの分泌を介し全身の免疫系が制御される仕組みです。
     ところで、学術専門誌「人体生物学紀要」(Annals of Human Biology)2013年11・12月号に、イタリアの生物学者エヴァ・ビアンコニを筆頭著者とする「人体の細胞数の推定」(An estimation of the number of cells in the human body)という論文が掲載されました。
     紀要によると研究チームは、人の体全体の細胞数、それぞれの器官の細胞数を、文献的そして数学的なアプローチを使って統計的に計算した結果、成人の細胞数は「37兆2000億個」だったと報告しています。人体の細胞数はこれまで言われてきた60兆個に比べると、37兆2000億個は、半端な数ではあります。しかし、研究紀要に載ったことから、より信頼のおける数ともいえそうです(「科学技術のアネクドート」Author : 漆原次郎)。
     自然界には、細胞のないウィルスから、細胞を有する大腸菌や乳酸菌、藻類などの単細胞生物、カビやキノコ、酵母などの菌類を始め、多くの細胞からなるより高等な動植物、さらには37兆個超の細胞からなる人間まで多種多様な生物が存在しています。
     低位の生物に比べて人間の生体恒常性が高いことは、細胞の多さが理由の一つとして考えられます。
     地球は約45億年前に誕生し、最初の生物は40億年前に生まれたとされています。当初は単細胞生物のみでしたが、15億年前に多細胞生物が誕生、5.7億年前のカンブリア紀には、バージェス頁岩動物群と言われるたくさんの多細胞生物が急激に増えました(「生物学超入門」大石正道著 日本実業出版社)。
     世界自然モニタリングセンター(国連環境計画)は「地球上には約870万種の生き物が棲息しており、その中の200万種が動植物だ」という報告書を発表しています。
    また、ワイツマン科学研究所(イスラエル)とカリフォルニア工科大学の研究者グループが米国「科学アカデミー」に生き物の炭素当量(ギガトン)に関して興味深い発表をしています。地球上の生き物の炭素当量は550ギガトンで、以下植物450、バクテリア70菌、類12、動物2、家畜0.1、人類0.006など、生き物ごとに推計しています。動物は全てあわせても2ギガトンで0.4%、人類に至っては0.006ギガトンで、総生物量の0.001%に過ぎません。
     ところで、「植物の発育を支える土、その土を豊かにする微生物、植物や動物の生存を助ける微生物、有害物質を分解浄化する微生物など善玉菌や動植物の病原菌となる悪玉菌など全てを含め、1グラム中に100億個レベルの細菌が蛍光顕微鏡により数えられています(「土壌微生物の世界」染谷孝著 築地書館)」。
     また、「私たちが認識しつつあるのは、人間のマイクロバイオームと植物のそれとが驚異的によく似た境界の上にあることだ。根菌から大腸の粘液内層まで、微生物は境界面で繁殖する。進化の旅路のあいだに、微生物のあるものは動植物と運命を共にし、根の表面や腸壁に定着した。そして有害なものを排除し、不可欠な栄養を導き入れ、情報を交換し、重要な代謝産物を宿主に渡すのに役立った。そうすることで、最も小さな生き物たちは、植物、動物、私たちの祖先すべてが、現在までの数億年を歩み続けられるようにした(「土と内臓」デイビット・モントゴメリー、アン・ビクレー著 片岡夏美訳、築地書館)」と自然の驚くべき営みが明らかにされています。
     知の巨人と言われた立花隆は「病気は、寄生者のおごりによる失敗である。巧みな寄生者は、宿主を殺さない程度に甘い汁を吸い続ける。宿主を殺してしまっては、自分も死なざるをえないからである。病原体微生物は、たびたび猛威を振るって疫病を流行させることがある。しかし、いかなる疫病もそう長続きするものではない。宿主が死なないうちに、別の宿主のところに移動しようと思っても、周囲の人間がバタバタ倒れて生息密度が低くなっているので、それもできない。そいうことで、疫病は終焉するのである。寄生という現象を広義に解釈してみると、人間の自然界における位置も寄生者に過ぎないことがわかる。人間という寄生者は、自然という宿主に寄生しているのであるから、自然を殺さない程度に利用すべきなのである。すでに地球の自然は病みつつある。この辺で毒素の排出を人間がやめないと、元も子もなくなる(「思考の技術」中公新書ラクレ)」と警鐘を鳴らしています。
     人間の個体をミクロで見ると生体恒常性により、生きるという行為は安定に保たれていますが、地球の自然というマクロで捉えてみると、人間は自然生態系の中でしか生きられません。
     地球史上に人類が登場し、現在に至るまで地球の生物量は半減しているとの指摘があります。現代文明は社会の都市化によって達成されてきたといっても過言ではありません。都市化と並行して進化してきた産業の高度な発達は、都市住民に食料を供給するために、森林破壊による農地や牧草地開発を必然なものとしてきました。
     人間の腸内には100兆個を超える〝善玉菌〟〝悪玉菌〟と呼ばれる細菌が生息していますが、その副生成物は脳を刺激し、私たちの意識にまで影響をもたらしているという研究も発表されています。
     人間が外部環境の変化に対し生体恒常性を維持できるのは、腸内細菌の働きによるといっても過言ではなく、人類は生態学的ピラミッドの頂点にあるとは決して言えません。
     私たち人類の開発行為が地球上の生物個体数の減少を招いてきた事実を直視すれば、食糧生産はじめ自然資源を際限なく浪費する、現代文明人が貪欲に追求してきた“成長を至上とする資本主義経済”は今まさに見直しを迫られています。一部の先進国における人口減少問題が浮上はしていますが、自然保全と成長論を調和、融合した新しいパラダイムの構築は「待ったなし」です。



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