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    アーカイブ フェロー・早田 秀人 エッセイ「思索の散歩道」 2025/09/12
    エッセイ「思索の散歩道」
    行き過ぎた清潔社会
     日本は清潔すぎる社会だと言われています。昔は一人一人回虫とか蟯虫とかの寄生虫を身体に持っていたので、花粉アレルギーなどへの耐性があったとか言われています。清潔さをどこまで追求していくかは、自然の摂理との折り合いの問題でしょう。極論すれば、無菌動物のようにひ弱な日本人になっては、個人はもとより国の損失に繋がります。
     アフリカのある国で地べたに座り指で蟻を摘まんで食べていた、泥水に近い水を飲んでいた光景を目にしたことがあります。
     清潔度が高すぎても自然の不測の仕返しに対する抵抗力が維持できない負の側面はあるでしょう。糞尿を下肥として循環させていた江戸時代の社会は、清潔さと汚さがある程度共存し、身体の耐性を高めるプラスの面があったことは否めません。
     明治時代初頭に来日し「日本奥地紀行」を著したイギリス人イザベラ・バードは、「まちの清潔さ、人々の礼儀正しい態度は美しかった。英国人の振舞いに比べてなんという違いだろう」と印象を記しています。
     記憶に新しい新型コロナウイルス・パンデミックの影響もあり、建物に入る前に手を消毒する、風邪でもないのにマスクを常用する、また、電車のつり革につかまることをためらう、集会所の机・椅子を利用するごとにアルコール消毒する、鍋料理に箸をつけない、等々〝不潔さ〟に過剰なまでに反応する人が増えています。
     「寄生虫博士」として知られた東京医科歯科大(現東京科学大学)名誉教授・感染免疫学の故藤田紘一郎は、講演で「私たちがよかれと思って作ってきた便利で快適で清潔な社会は、私たちの免疫力を低下させるように誘導してきました。私はそれを『きれい社会の落とし穴』と言っています。私たちの体の細胞や免疫システムは、一万年前と全く変わっていません。一万年前、正常に働いていた免疫システムは、ストレスが多く清潔志向の現代文明のなかで低下してきたのです。従って免疫力を高めるには、一万年前に行っていたことと同じ行動をこの現代社会の中に取り入れることです」と語り、「過剰な清潔志向は百害あって一利なし」と断言、行きすぎた清潔社会に警鐘を鳴らしました。
     さらに続けて、「最近の研究」で、人間の健康の大部分は『腸内環境』で決まることがわかってきています。腸内にはおよそ200種100兆もの腸内細菌がいて、これら無数の腸内細菌が腸内に『腸内フローラ』という〝細菌のお花畑〟を形成しています。それが活性化すればするほど、健康に良い影響を与えます。そして、そのためにはより多くの種類の菌を取り込むのが一番なのです」とも語っています。
     小豆島の「醤の郷」で、150年以上続く「山六」という醤油蔵あります。この蔵の特徴は、木桶仕込みにあり、蔵の床は土間、壁は土壁です。この環境が醤油づくりに必要な大凡100種類もの酵母菌や乳酸菌などの微生物を育んでいます。これらの微生物は醤油や味噌などの発酵調味料のおいしさを生み出すだけではなく、蔵で働く人たちの免疫力を高める働きをになっています。
     今日、〝清潔〟を意識するあまり、生活環境を必要以上に無菌状態化することにこだわることは、自然の摂理に反し、地球上に遍在し人類と共存している細菌までを否定することに繋がります。生から死に至り、また新たな生が育まれる生命の循環は、すべて細菌や菌類などの微生物の働きによるといっても過言ではありません。また、地球の生存圏で起こっている様々な気候、気象は〝エアロゾル微粒子〟が大事な役割を担っています。この微粒子にも菌糸類や生物起源の硫黄酸化物等があります。
     目には見えない「微生物が担っている自然の摂理に従って生きている」ことを、私たちは肝に銘じ、〝過度な清潔生活〟から決別する〝賢さ〟を持たなければなりません。命が生まれいつかは死にいたる、そして物質化した生体を分解、自然に還元する輪廻転生のドラマを演出するに細菌の営為に対し、私たちが尊大にふるまい介入する権利はありません。



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