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アーカイブ 研究所長・井坂 公明 メディア 2024/08/10
朝日新聞の夕刊発行地域、10月から首都圏と関西圏のみに縮小
朝日新聞は8月2日付朝刊紙面で、10月1日から静岡、山口、福岡3県で夕刊の発行を休止することを明らかにした。新聞用紙など原材料の高騰や輸送費の上昇が続く一方で、読者の減少が止まらず、採算がとれなくなってきたためだ。同紙は2023年5月から愛知、岐阜、三重の中部3県で、24年4月からは北海道で、既に夕刊の発行をやめている。これにより夕刊発行地域(朝夕刊セット版地域)は関東1都4県(東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城の一部)と関西2府4県(大阪、京都、兵庫の一部、滋賀、奈良、和歌山)および沖縄県にまで縮小することになる。
新聞業界関係者によると、朝日新聞は27年度までにすべての夕刊をやめる方針を固めているという。朝刊も含めた部数減、売上減が続く中、重荷となっている夕刊を全廃して「身軽」になろうという戦略とみられる。
日本ABC協会の調べによると、朝日新聞の夕刊販売部数は静岡県が約1万9千部、福岡県と山口県合わせて約2万3千部。沖縄県は朝夕刊セット地域に含まれているものの、空輸が必要なため朝刊は配達時間が半日遅れ、夕刊は1日遅れの上、夕刊販売部数は641部(朝刊も646部)にとどまっている(いずれも23年下期平均)。
朝日新聞の24年6月の全国の夕刊販売部数は97万8715部で、前年同月に比べ12万部(10.9%)、2年前の同月比では28万6千部(22.7%)のそれぞれ大幅減となった。10年前の14年6月(260万8274部)に比べると162万8千部も落ち込んだ。
他の全国紙では、毎日新聞が08年9月から北海道で、23年4月から中部3県で夕刊を休止。さらに24年4月からは滋賀県と、兵庫県の一部地域(姫路・加古川・高砂各市)で夕刊をやめた。夕刊発行地域は関東1都6県(東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬)と山梨、静岡両県、関西2府3県(大阪、京都・兵庫・奈良・和歌山のそれぞれ一部)、山口、福岡、沖縄各県。ただ、茨城、栃木、群馬、山梨、静岡各県の全域と千葉県・東京都の一部地域では、夕刊は当日の配達ではなく、翌日の朝刊と一緒の配達となっている。
毎日新聞の24年6月の全国の夕刊販売部数は43万8283部で、前年同月比5万6千部(11.4%)、2年前の同月に比べると15万6千部(26.3%)のそれぞれマイナスとなった。同新聞は6月の朝刊販売部数が150万部を割り込むなど、朝日新聞に比べ経営状態がより厳しい。そう遠くない時期に朝日新聞に追随して夕刊発行地域をさらに縮小する可能性が高そうだ。
夕刊発行地域の縮小を急ぐ朝日、毎日両新聞に対し、読売新聞は山口寿一グループ本社社長が23年の業界紙新年インタビューで、「ストレートニュースにこだわって、今後も夕刊をニュースメディアとして発行していく」と、我が道を行く構えを表明している。夕刊発行地域は北海道の一部、関東1都6県、山梨県の一部、静岡県、富山・石川両県の一部、関西2府4県(大阪、京都・兵庫・滋賀・奈良・和歌山のそれぞれ一部)、山口県の一部、福岡県、沖縄県。北海道や北陸地方で出しているため、朝日、毎日両新聞に比べ夕刊地域はやや広い。夕刊販売部数も全国で144万8455部(24年6月)と最多を誇る。しかし、前年同月に比べ13万7千部(8.7%)、2年前の同月比では20万4千部(12.4%)のマイナスと他の全国紙と同様、部数減は止まっていない。10年前の14年6月(312万0713部)に比べると167万2千部も減った。
産経新聞は02年4月に東日本地区(北海道、東北、関東、東海、北陸、中部)で夕刊の発行を取りやめた。その後、西日本地区でも夕刊地域を徐々に縮小、今年4月からは滋賀県で休止し、現在は関西2府3県(大阪、京都、兵庫、奈良、和歌山)のみの発行となっている。全国の夕刊販売部数は21万7648部(24年6月)で、前年同月比3万5千部(13.9%)、2年前の同月に比べ5万部(18.8%)の減少となった。
日経新聞の夕刊発行地域は関東1都4県(東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城)と山梨県、静岡県、中部3県、関西2府4県、山口県、福岡県となっている。同紙は23年7月に購読料を値上げした際、朝夕刊セット版地域で「朝刊単独」プランを新設した。他の全国紙も従来から、セット版地域での販売店による朝刊単独の非公式販売を黙認はしてきたが、正式な料金プランとして朝刊のみの購読を認めたのは日経新聞が初めてだ。
そうしたことも影響して、日経新聞の24年6月の全国の夕刊販売部数は50万6977部と、前年同月に比べ20万1千部(28.4%)、2年前の同月比では28万1千部(35.7%)の大幅な落ち込みとなった。過去1年間の減少率は全国紙の中で最大だ。同紙は東京を除く大都市圏や地方で朝日新聞に夕刊配達を委託しているケースが少なくないため、今後朝日新聞が夕刊発行地域をさらに縮小していけば、追随せざるを得ないケースが出てくるものとみられる。日経新聞は朝刊も減少が続いているが、日経電子版の有料会員は増えており、7月1日現在で97万人を超え100万人の大台に迫っている。
地方紙では、23年4月から静岡新聞、同10月から北海道新聞と信濃毎日新聞、24年3月から新潟日報がそれぞれ夕刊を休止した。また、東京新聞は8月末で東京23区を除く地域での夕刊の配達を終了する。その結果、県紙クラスの地方紙で夕刊を発行しているのは、河北新報、東京新聞(東京23区のみ)、北國新聞、中日新聞、京都新聞、神戸新聞、西日本新聞の7紙だけとなった。このうち河北、北國、西日本の3紙は販売部数が3万部台と少ないため、今後休止に踏み切るかどうかが注目される。
夕刊については、全国紙が地方紙に、地方紙が全国紙に配達を委託しているケースが少なくない。例えば、北海道では朝日新聞が北海道新聞に委託していたが、同紙が23年10月に夕刊をやめたため、朝日新聞の夕刊も配れなくなり、朝日新聞も24年4月から夕刊を休止するに至った。地方紙関係者によると、朝日新聞の今回の福岡県での夕刊休止決定を受け、北九州市内で夕刊の配達を朝日新聞に委託している西日本新聞も、他紙に委託替えするか、夕刊を翌日配達(朝刊と一緒)にするか、夕刊をやめて朝刊のみにするか、などの選択を迫られているという。まさに夕刊廃止のドミノ倒し現象が起きている。
日本の日刊紙全体の夕刊販売部数は13年下期(平均)には1255万部(ABC協会調べ、千部以下切り捨て)あったが、10年後の23年下期(平均)には463万部(同)と3分の1近くにまで減少した。この間に朝刊販売部数が4122万部から2531万部まで減っているのに比べると、減少率は夕刊の方が断然大きい。
朝夕刊のセット発行は、欧米諸国には例のない日本独自の制作販売システムだ。継続的な夕刊の発行は大正期に入ってからだが、1日1回の朝刊だけの発行より迅速な情報を求める当時の読者のニーズに応えたものだった。しかし、情報がリアルタイムで飛び交う21世紀に入り、夕刊はニュースメディアとしては歴史的な使命を終えつつある。夕刊全廃に向けたカウントダウンが始まった。(了)
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