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    アーカイブ 主席研究員・櫻井 元 エッセイ 2024/06/10
    コアラに“同行取材”した日――40年前の記憶
     「コアラの食べ残し 癒しに変身」。6月5日の朝日新聞夕刊(東京発行)に掲載された宮田富士男記者の記事を興味深く読んだ。コアラのえさは、ユーカリの葉だが、鹿児島市の平川動物公園で廃棄される食べ残しの葉からオイルを抽出、アロマグッズを開発した大学生起業家の「SDGs奮闘記」だ。驚いたのは、次のくだりだった。「同園は、コアラ18頭を飼育し、えさのユーカリは……柔らかい新芽の部分しか食べないため、毎日100㌔用意しても8割以上が食べ残される」
     平川動物公園、東京都日野市の多摩動物公園、名古屋市の東山動植物園の3ヵ所にオーストラリアから初めてコアラがやってきたのは、1984年10月25日。私は、鹿児島市政担当記者だった。
     鹿児島で聞いた話なので、真偽のほどは分からない。が、コアラ誘致合戦では、鹿児島が先行し、東京都と名古屋市が追いついてきた、と言われていた。鹿児島市がオーストラリアの姉妹都市パース市との関係や、ローンパイン・コアラ園(ブリスベン市)との民間ベースの交流を活用したという経緯も取材した。
     そこで、「来日するコアラに同行する」というオーストラリア出張の企画を立て、「コアラ外交をオーストラリア側から検証したい」と、支局長や次長(デスク)に提案した。が、一瞬で却下。支局には海外出張の予算がない、という以上に「同行取材と言っても、キミはコアラ語をしゃべれないだろ」と、説得力のある理由があった。
     しばらくして、デスクから「成田から鹿児島までの空路なら、コアラ同行を考えてもよい」と逆提案があった。「それでも、うれしいです」と応じて、市役所や航空会社に掛け合い、地元紙や地元テレビ局も思いつかない「単独同行取材」が実現した。
     しかし、想定外の事情があった。コアラはストレスに弱い。鹿児島へ来たオス2頭は、ローンパイン・コアラ園で生まれたので、東京、名古屋行きのコアラより、人間には慣れているはずだが、ケージには薄い布がかけてあり、外からコアラが見えなかった。オーストラリアの関係者が気を利かして、チラっと布をめくってくれたが、夜行性なので熟睡中。「同行記なんて書けない」と焦った。
     鹿児島空港に着陸して、オーストラリアの関係者に「みなさんが降りてから、私は目立たないように最後に降ります」と話すと、そのうちの1人が「内緒だよ」と口元に人差し指を立てたあと、ケージからコアラを出して、そっと私の左肩のあたりにつかまらせ、ほんの10秒ほどだったが、抱かせてくれた。コアラは視力が弱いので、眼から感情を読み取ることはできないが、じわっと爪を立て、しがみついてきた感覚は、「この子、不安なのかな」と思わせた。空港であった「歓迎式典」では、笑顔の鹿児島市長がコアラを抱っこしたが、実は、先に私が抱かせてもらったわけだ。
     空港から平川動物公園まで、パトカーが先導したコアラ到着を受けて、鹿児島版で小さなコラム「コアラ日記」を1ヵ月連載した。ユーカリ調達の難しさも書いた。市政担当記者で「コアラ命名委員会」をつくり、全国からの公募をもとに、2頭のうちりりしい顔の1頭に「はやと」、眠そうな顔の方には「ネムネム」と名づけた。「日記」のネタ切れに悩んでいた終盤、名古屋のコアラ担当だった同期の女性記者から「はやとのタマタマは、体の割に大きいから、きっと繁殖力が強いわよ」。意表を突く指摘もあった。18頭という「全国一の大所帯」を予言した、といえるかも知れない。
     コアラ命名には、後日談もある。2014年秋だったか、当時の九州朝日放送(KBC)社長の発案で、東北と九州のテレビ朝日系列の社長たちが、九州大学の伊都キャンパスを訪問。水素エネルギーの研究施設を見学し、水素自動車にも試乗させてもらった。ご挨拶された広報担当理事の顔に見覚えがあったので、最後に話しかけてみた。「はやととネムネム、覚えてますか」「わぁ、コアラの命名委員会ですよね」。はじけた彼女の笑顔は、鹿児島の民放アナウンサー当時のままだった。



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