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    アーカイブ 主席研究員・櫻井 元 エッセイ 2024/12/23
    ファーストキスの街へ
     「バァさんがいますよ」
     助手のヨハネス君が、小さく指さした。
     ジィさんしか見えない、と言おうとして、言葉を飲み込んだ。エゴン・バール1さんだ。
     1999年の春。ボンの町のどのあたりを、2人で歩いていたのか。バールさんが、どんな服装で、何をしていたのか。よく思い出せない。ただ、気持ちのよい晴天の午後だった。
     「こんにちは」
     挨拶すると、私たちが2月25日、社会民主党(SPD)本部を訪ねた時のインタビューを思い出してくれたのか、「よお、元気かい。忙しいか」と親しげな言葉が返ってきた。
     「引っ越しを控え、雑用が多くて……」
     統一ドイツの首都は、1990年9月に発効した統一条約2によって、ベルリンと定められた。その後、ボン市と周辺地域に一部の政府・国際・研究機関を残すベルリン・ボン法3の制定などを経て、99年9月、いよいよ連邦議会と政府の一部が、ベルリンへ移ろうとしていた。
     一方、退職して年金生活に入った公務員の中には、落ち着いたボンのたたずまいが気に入って、引っ越さないという人も少なくなかった。とくに南部のバートゴーテスベルクには当時、欧州屈指の和食の店があったことから、日本に勤務したことのある元外交官の多くが、ボンにとどまろうとしていた。
     ボン市(人口33万)からベルリン州(370万)へ転居するのは、ざっくり言えば、秋田市(30万)から横浜市(377万)へ引っ越すようなもので、秋田の美酒・美食・美林・美人にひかれて永住したい、という高齢者の気持ちはよく分かる。
     「バールさんは、どうするんですか。ベルリンへ行きますか」と聞いてみた。
     「もちろん、行くさ。だって、ベルリンは、僕が初めてキスした街だよ」
     77歳のジィさんから、チャーミングなウィンクが飛んできた。
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    1 Egon Bahr(1922.3.18-2015.8.19):当時はSPD顧問。第4代連邦首相をつとめたヴィリー・ブラント氏の側近で、連邦議会議員(1972-90年)、特命相(72-74年)、経済協力相(74-76年)などを歴任。“Wandel durch Annäherung”(接近による変化)を提唱し、東方外交の基本をデザインした。その構想の変遷については、アンドレアス・フォークトマイヤー(岡田浩平・訳)『西ドイツ外交とエーゴン・バール』(三元社、2014年)に詳しい。また、東京大学大学院総合文化研究科附属グローバル地域研究機構ドイツ・ヨーロッパ研究センターの「ヨーロッパ研究vol.15」(2016年)のマイク・ヘンドリク・シュプロッテ「日独外務省政策企画協議と日本の核武装問題――エゴン・バールと1969年の日本訪問」では、1969年2月に来日したバール氏が、外務省関係者に対して、日本の核武装の可能性について非公式な議論を提起したことが紹介されている。
    2 Vertrag zwischen Bundesrepublik Deutschland(BRD)und der Deutschen Demokratischen Republik(DDR)über Herstellung der Einheit Deutschlands
    3 Berlin/Bonn-Gesetz: Gesetz zur Umsetzung des Beschlusses des Deutschen Bundestages vom 20. Juni 1991 zur Vollendung der Einheit Deutschlands



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