|
アーカイブ 月刊ニューメディア 2023年10月号 水野 泰志
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
マイナンバー制度を巡る混迷がますます深刻さを増し、岸田文雄政権を激しく揺さぶっている。そんな中、政府の個人情報保護委員会が7月下旬、ついにデジタル庁に立ち入り検査に入った。「情報管理に問題があった」というのが理由で、所管する官庁としての適格性が問われる前例のない“事件”である。国民全員に関わるマイナンバー制度の根幹に関わる由々しき事態と言わねばならない。個人情報の漏洩に対する国民の不安と不信は広がるばかりで、内閣支持率が急落するのも当然だろう。
今さら指摘するまでもないが、マイナンバーカードの活用拡大に向けた改正マイナンバー法が成立した6月2日前後から、マイナンバーを巡る不祥事が次々に発覚。数え上げたらキリがないほど、さまざまなトラブルが明らかになっている。
立ち入り検査の対象となったマイナンバーと預貯金口座をひもづける公金受取口座登録問題に限っても、他人の口座を誤登録したケースが確認されただけで940件、本人以外の家族名義の口座に登録した事例は約14万件にも上る。埼玉県では、実際に他人の口座に誤入金してしまった。
マイナンバーを巡るトラブルの多くは自治体の窓口で起きているが、個人情報保護委員会は「マイナンバーのシステムを管理しているデジタル庁に一義的な責任がある」と糾弾、書面による調査では十分な回答が得られず、行政の現場に直接乗り込むことになったという。
マイナンバーを巡る大混乱の発端は、河野太郎デジタル相が22年10月に突如、2024年秋に現行の健康保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化する「マイナ保険証」の強行策を打ち出したことだ。
そもそもマイナンバーカードの取得は任意のはずなのに、保険証機能を持たせて事実上義務化しようとしたことに根本的な誤りがあった。
その「マイナ保険証」は、別人の情報を登録(約8,400件)したり、保険資格を確認できずに「10割請求」(約770件)したり、本人の同意なくひもづけが行われた(10件以上)など憂慮すべき事例が続出、返納する動きも広がっている。
岸田首相が期待した河野デジタル相の「突破力」は、庶民の不安だけでなく医療関係者や自治体の現場を顧みない、上から目線の「暴走力」に変質、国民的な反発を買い、政権を窮地に追い込んでしまった。
報道機関の世論調査では、保険証廃止の延期や撤回を求める声は7割にも上り、野党はもちろん自民党の幹部も相次いで見直しを求めた。
にもかかわらず、岸田首相は8月初め、保険証の2024年秋廃止は譲らず、保険証の代わりとなる「資格確認書」の弾力的運用でお茶を濁す弥縫策を表明した。だが、現行の保険証を残した場合とほとんど変わらないため、自慢の「聞く力」を棚上げして既定方針に固執する岸田首相に痛烈な批判が浴びせられた。
国民の7割にまで普及したマイナカードだが、2万円のポイントにつられて取得した人は少なくなく、決して利便性が期待されてのことではない。使い道が限られれば役立たずの代物に堕してしまう。
この期に及んでは、現行の保険証を存続させ、河野デジタル相を更迭することが、内閣支持率の急回復に直結するかもしれない。もっとも、それは政権の大失態を自ら認めるという皮肉な話なのだが…。
| |
|