|
アーカイブ 月刊ニューメディア 2024年8月号 水野 泰志
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
フェイスブックなどの交流サイト(SNS)で著名人になりすまして投資を呼びかける「偽広告」の被害が急増し、大きな社会問題となっている。新たな犯罪手口の拡大を防ごうと、政府や自民党が巨大プラットフォーム事業者の規制強化に向けて緊急対策を練る事態に発展した。だが、ネット上から「偽広告」を削除する強権発動には及び腰だ。実害が広がらないために、早急に毅然とした措置が求められる。
SNSを使ったなりすまし投資詐欺の手口はいろいろあるが、典型的なケースの一つは
①フェイスブックなどで著名人になりすました「偽広告」をクリックする
②LINEのグループチャットなどに誘導され投資をするよう仕向けられる
③取り引き用アプリをダウンロードし指定口座へ送金する
④アプリ上では利益が出たようにみえるが口座から資金を引き出せない
⑤そのうち連絡がとれなくなり投資した資金も利益も回収できなくなる
警察庁によると、SNS型なりすまし投資詐欺の被害は、2024年1~3月に1700件に上り、前年同期の271件に比べ6倍強に急増、被害総額も約29億円から7.5倍の約219億円にハネ上がった。
こうした事態に、なりすまされた著名人も、金銭をだまし取られた被害者も、泣き寝入りせずに立ち上がった。
実業家の前澤友作氏は5月、メタと同社日本法人を相手に「氏名や画像を無断使用した広告の掲載を許可している」として、「偽広告」の差し止めと1円の損害賠償を求めて提訴した。同じように名前や画像を悪用された実業家の堀江貴文氏やジャーナリストの池上彰氏も、「削除を求めても改善されない」として、政府が具体的な対策をとるよう求めた。
一方、被害に遭った人たちも4月、メタの日本法人に対し損害賠償を求める訴訟を起こした。「偽広告を掲載しなければ被害を受けなかった」と訴え、「メタは詐欺加害者の手助けをしているのも同然」と怒る。
なりすまし投資詐欺問題のポイントは、端緒となった「偽広告」をSNS上から速やかに削除できるかどうかだ。
現行の法体系では、メタやX(旧ツィッター)の巨大プラットフォーム事業者に不適切な情報の削除を強制することはできない。
5月に成立した改正プロバイダー責任制限法(情報流通プラットフォーム対処法に改称)は、「他人の権利を侵害する情報」の削除について初めて法的な規定を整備したが、表現の自由などに配慮して、削減を義務づけるまでには至っていない。しかも、施行は1年も先なので、現下の被害拡大を阻止する特効薬にはなりそうもない。
事態を重く見た政府や自民党は、巨大IT企業の規制強化に向けて動き出した。
総務省は、有識者会議が新たな規制システムの創設も含めて早々になりすまし対策の報告書をとりまとめることになった。自民党のワーキングチームも6月初め、「偽広告」の規制強化を求める緊急提言をとりまとめ、岸田文雄首相に手渡した。
一方、影が薄いのが野党だ。政府の対応が緩いから国民生活が脅かされている事態を鑑みて、率先して国民目線で議員立法などを提案してもいいはずだ。
こうした問題が起きるたびに、被害者サイドのリテラシーが問われるが、詐術が巧妙化し、微妙な人間心理につけ込んで金銭をかすめ取る詐欺は一向になくならない。なりすまし投資詐欺を防ぐためには、強制力をもって発端となる「偽広告」を排除するしかない。
日本の巨大IT企業に対する規制は欧州連合(EU)に比べて甘いと言われるが、もはや「偽広告」の削除をプラットフォーム事業者の自主判断に任せておける状況ではなくなった。広告で稼ぐプラットフォーム事業者を野放しにしておいてはならない。
| |
|