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客員研究員・山川 鉄郎 アーカイブ フジサンケイ広報フォーラム エッセイ 2024/03/10
インターネットは確かに便利なものだ。しかし一方で多くの違法・有害情報が流通し、特にSNS上の誹謗中傷問題が顕在化している。ネット上の誹謗中傷が自殺の要因になったと考えられる痛ましいケースもあり、早急に対応が必要だ。
ネット上の誹謗中傷に関しては、総務・法務省が発信者情報開示に関する取り組みを進めてきている。新たな裁判手続きの創設や開示対象のログイン情報の明確化等の対策が強化され、侮辱罪の法定刑も引き上げられた。しかし、被害者からの相談の3分の2を占める「誹謗中傷の投稿の削除」については制度化が遅れていた。その背景には、人権の保護と表現の自由とのバランスをどこで取るべきかという難しい判断がある。
この問題に関しては、米国と欧州でアプローチに大きな違いがある。もともと米国も欧州も、表現の自由を重視して、インターネットへの規制は控えてきた。しかし、EUは2018年、一般データ保護規則において「忘れられる権利」を明文化し、表現の自由に一定の制約を認めた。情報社会・メディア総局担当のヴィヴィアン・レディング委員が、ネット業界の大反対のなかで「我々は決断した」と力強く表明したことはよく覚えている。
で、日本である。総務省は、この国会に「情報流通プラットフォーム対処法(仮称)」の提出に向けて準備中である。内容は、大規模なプラットフォーム事業者に対して、削除申出窓口の設置や一定の期間(概ね一週間)での処理、削除基準の策定・公表義務を負わせるというもの。欧州のように個人の取消請求権(コンテンツモデレーション)までは踏み込まなかったが、誹謗中傷問題の対応に一定の方向性をつけたと評価できる。
他方で、投稿に注目を集めることがビジネスモデルに直結するプラットフォーム事業者の自主性に、難しい誹謗中傷問題の解決を委ねることがうまく機能するのか、心配な点もある。法律が動き出したあとの実効性をきちんとフォローしていきたい。
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