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    アーカイブ メディア展望 2020年5月号 井坂 公明
    新聞、2年連続200万部減
    コロナ禍による広告減が追い打ち
     日本新聞協会が昨年末に公表した2019年(10月現在)の新聞総発行部数(加盟日刊116紙)は3781万1248部と、前年に比べ209万328部、5.2%の大幅減となった。全国紙1紙分に相当する部数が1年で消え、この10年間で約1250万部を失ったことになる。新聞離れは止まるどころか加速しているが、今のペースで進むと仮定しても部数は9年ほどで半分以下に落ち込む計算だ。今年は新型コロナウイルスの影響で春から広告収入も激減しており、新聞業界にとってさらに厳しい年となりそうだ。
    急減にギアが入った
     新聞協会によると、19年の発行部数は15年連続の減少となり、減少幅は過去最大だった18年(前年比222万6613部、5.3%減)に続き、2年連続で200万部を超えた。地域別では、減少率が最も大きいのは九州で前年比6.9%減。以下、大阪(6.4%減)、四国(6.0%減)、東京(5.8%減)、関東、近畿(5.5%減)と続く。中国は4.5%減、中部4.2%減、東北4.0%減、北海道3.9%減、北陸3.8%減、沖縄は1.0%減だった。特に西日本での後退ぶりが目立つ。
     新聞発行部数は1997年の5376万部(千部以下切り捨て、以下同)をピークに減少傾向が続いている。08年までは多くても前年比50万部ほどのなだらかな減少だったが、09年に初めて114万部と100万部を超えるマイナスを記録。14年には163万部と減少幅が拡大し、18年と19年は200万部超と急減にギアが入った形となった。(グラフ1参照)
     部数減少の底流には、インターネット特にスマートフォンの普及による若年層の「紙」離れと、新聞の主な読者である高齢層の新聞市場からの「退出」という状況がある。併せてヤフーニュースに代表されるネットの無料ニュースサイトの存在が大きい。スマホでいつでもどこでも無料でニュースが読める環境が整ってきたことが、有料の新聞の購読者減につながっていると言えよう。
    スマホの破壊力
     部数の前年比減少幅が初めて150万部を上回ったのは14年だが、13年度には日本でスマホを利用する人の割合が初めて50%を超えていた。総務省情報通信政策研究所の「平成30(2018)年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(19年2~3月実施、回答者1500人)結果によると、18年度のモバイル機器などの利用率はスマホが87.0%に達し、タブレットも37.1%に増えた。他方、フィーチャーフォン(ガラケー)は20.7%まで落ち込んだ。スマホの利用率は12年度には32.0%にとどまっていたが、13年度には52.8%と半数を超えた。その後順調に増えて17年度は80.4%に、18年度には9割に迫った。
     今や日本最大級のネットニュースメディアに成長したヤフーニュースがスタートしたのは96年7月。新聞の全盛期だった。ヤフーニュースは2000年代に入り急速に巨大化していったが、08年までは新聞部数の減り方がまだなだらかだったのは、ネットがパソコン(PC)中心だったからだと考えられる。13年ごろからスマホの普及が本格化するに伴い、部数減の幅が大きくなっていった。
     18年、19年に部数が急減したこととの関連で注目されるのが60代のスマホ利用率の変化だ。前述の総務省調査によると、12年度には4.7%に過ぎなかったが、17年度は45.1%と半数に迫り、18年度には60.5%と初めてガラケー(42.1%)を逆転した。タブレットの利用率も27.4%に増えた。スマホが高齢者にも普及し始めたことが部数減につながっていると推測できよう。(グラフ2参照)
    70歳以上の「退出」が始まった
     NHK放送文化研究所が16年2月に発表した「2015年国民生活時間調査」(15年10月実施、回答者7882人)結果によると、最も新聞を読んでいる年代は「70歳以上」だ。平日に15分以上新聞を読んでいる人は全体の33%で、前回10年調査より8㌽、05年より11㌽、新聞全盛期の95年に比べると19㌽も落ち込んだ。この割合は95年から減り続けているが、最近の5年間の減り幅が特に大きい。
     年代別に見ると、10代後半(16~19歳)で新聞を読んでいる人はわずか5%と95年調査の約4分の1に、20代は6%、30代は11%でそれぞれ5分の1に減った。40代は22%で3分の1、50代も39%と半分近くまで落ち込んだ。60代は55%いるが、それでも20年前に比べ15㌽も低下した。
     注目しなければならないのが「70歳以上」だ。まだこの人たちの59%が新聞を読んでいる。NHKは国民生活時間調査を1960年から5年ごとに実施してきたが、70歳以上の中核を形成する70代は75年調査では30代、85年調査では40代、95年調査では50代、05年調査では60代として、40年間にわたり常に最も新聞を読んできた世代なのだ。どの調査でも新聞を読む割合の頂点を形作り、全体の割合を押し上げてきた、新聞にとって特別な人たちだ。70代そして60代の一部は、朝起きたら新聞を読む習慣が身についた世代だ。この世代の高齢化に伴う新聞市場からの「退出」が始まっており、部数減はむしろこれから本格化するとさえ言えよう。(グラフ3参照)
    地方紙の減少幅も拡大
     日本ABC協会がまとめた19年11月現在の日刊紙朝刊の総販売部数は3308万7648部と前年同月に比べ186万部余りの減少となった。全国紙の販売部数を新聞社別に見ると、読売新聞が795万部(千部以下切り捨て、以下同)で前年同月比39万部(4.8%)減、朝日新聞が529万部で40万部(7.1%)減、毎日新聞が230万部で26万部(10.3%)減、日経新聞が222万部で12万部(5.3%)減、産経新聞が135万部で10万部(7.3%)減。全国紙の減少分は合わせて129万部超と全体の減少分の7割を占めた。
     ただ、減少分に占める全国紙の割合は年々小さくなってきており、他方これまで小幅にとどまっていた地方紙の減り方が拡大している。地方紙は19年11月までの1年間で約57万部減らしたが、18年11月までの減少幅(約40万部)の1.5倍近くに上った。これまでは若年層や単身者の多い大都市圏を抱える全国紙を中心に新聞離れが進んできたが、高齢者の割合が高い地方部に拠点を構える地方紙にもそれが及んできたと言える。有力地方紙の幹部も「高齢の購読者が減っている」と明かす。
    デジタルにまい進する日経
     新聞離れに対する全国紙の対応は、紙媒体からデジタル媒体への転換を進めるか、あくまで「紙」に活路を見いだすかの二つに大きく分かれている。前者の代表が日経新聞だ。10年3月に全国紙として初の有料電子版である日経電子版を創刊。専売店網をあまり持たない身軽さもあって、「デジタルファースト」の編集方針を掲げ、創刊満10年となる今年2月には有料購読者を70万人台に乗せた。翌日の朝刊一面に掲載予定の特ダネ記事を電子版では夕方に配信する「イブニングスクープ」など、読者が必要とする時間帯に必要な情報を届ける姿勢を打ち出し、記者の働き方もアクセスが集中する朝食・出勤時、お昼休み、夕方・帰宅時の時間帯に合わせるよう改革している。今秋にはデジタルの特性をより生かした「次世代電子版」を投入する予定だ。
     2月現在で221万部(ABC調査)まで減った紙の新聞については、さらなる部数減を想定し製作体制を効率化していく方針だ。他の全国紙が軒並み売上高を減らしているのを尻目に、日経新聞だけはここ数年ほぼ横ばいで推移している。これは紙の減少をデジタルで補うことができている証左だろう。
    「紙」で一人勝ち狙う読売
     他の全国紙が地方拠点の数や人員を減らしているのに対し、読売新聞は全国に展開する取材網と業界最強と言われる専売店網をできる限り縮小せず、維持することで「唯一の全国紙」(山口寿一グループ本社社長)の地位を築こうとしている。他の全国紙からシェアを奪い、紙の世界での「一人勝ち」を狙う作戦だ。読売新聞を購読すれば無料で読める電子版・読売新聞オンラインの読者会員は86万人に上るというが、デジタルはあくまで紙の価値を高める手段という位置付けだ。全国紙の中に占める読売新聞の部数の割合、日刊紙全体に占める読売新聞の割合は、いずれも年々拡大傾向にあるものの、全体の部数、読売新聞の部数とも減り続けている。同社の戦略の成否は全体の部数がどこで下げ止まるかにかかっていると言えそうだ。
     朝日新聞は日経新聞同様、デジタルへの転換を掲げているが、11年5月に日経電子版を追い掛けてスタートさせた朝日新聞デジタルは伸び悩み、有料購読者は31万人にとどまっている。有料購読料モデルの朝日新聞デジタルと無料広告モデルの「好書好日」や「GLOBE+」「sippo」などのサイトが乱立、経営資源の集中が図られているようには見えない。これでは記者の取材力も分散してしまうのではないか。紙の部数が毎年30万~40万部のペースで減り続けるのに有効な手を打てない一方で、デジタルの主柱となるべき朝日新聞デジタルも十分に育てることができていないという中途半端な状況に陥っている。
     毎日新聞と産経新聞もデジタルへの移行方針を表明、それぞれ15年6月から「デジタル毎日」、16年12月から「産経電子版」を刊行したが、伸び悩んでいるためか有料購読者数を公表するには至っていない。両社とも昨年、50代の社員を対象に希望退職者を募集した。
    ネットで無料で読める新聞記事
     実は新聞部数は減り続けているが、新聞社が作った記事は相変わらず読まれている。ただし、新聞紙上ではなくネット上で、有料ではなく無料で。例えばヤフーニュースには今や多くのマスメディアが記事を提供しており、全国規模のメディアで出していないのは日経新聞とNHKだけだ。4月上旬現在の提供本数も産経新聞は1日130本程度、毎日新聞は約90本、朝日新聞が70~80本、読売新聞も60本程度に上る。それも1面の独自記事まで提供しているケースが少なくない。新聞特に全国紙は有料の新聞紙・電子版を売りながら、同時に無料で読むことができるネットメディアに新聞記事を提供するという矛盾を抱えたやり方を20年来続けてきた。
     これではバケツの底に穴が開いているようなものだ。せっかく新聞を学校教材として活用するNIE(Newspaper in Education)で小中学生の新聞読者を育てても、社会に出た途端、ネットニュースの方へ行ってしまう。同じ記事が無料で読めるからだ。新聞社がネットメディアから得られる記事提供料と広告収入では、部数減をとても補い切れない。部数減に見合うほど記事提供料を引き上げてもらうか、提供本数を絞るか、なくしていくか…。まずは何とかこの矛盾に満ちたやり方を修正する必要があろう。
    ネットでお金が取れる記事を
     コロナウイルスの直撃を受け、在京4紙(朝毎読日経)の2月度の広告段数は全紙が前年同月実績を下回り、最近10年間で最低となった。影響が深刻化した3月以降のデータはこの原稿の執筆時点(4月8日現在)ではまだ公表されていないが、落ち込みがさらに大きくなるのは確実だ。コロナショックで部数減、広告減が加速する可能性が高い。
     新聞の主な読者である高齢者の「退出」を止めることはできない。そして若年層が「紙」には戻ってこないであろうことを前提にすれば、基本的には記事を読んでもらう媒体をデジタルに替えていくしかないだろう。
     デジタルでニュースにお金を払ってもらうにはどうしたらよいのか。深い分析・解説や深層・裏側をえぐる記事など「ここでしか読めない記事」を、署名など記者の顔が見える形で増やしていくしかあるまい。新聞社は今そこにこそ経営資源を集中すべきではないか。(了)



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