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    アーカイブ メディア展望 2022年12月号 井坂 公明
    書評 坂 夏樹著「危機の新聞 瀬戸際の記者」(さくら舎=1600円+税)
     新聞の部数減が止まらない。特に全国紙の落ち込みが大きく、日本ABC協会がまとめた8月の朝刊販売部数は、読売新聞が671万部(千部以下切り捨て、前年同月比34万部減)、朝日新聞が402万部(同60万部減)、毎日新聞187万部(同11万部減)、日経新聞170万部(同14万部減)、産経新聞101万部(同7万部減)と厳しい数字が並んだ。5紙合わせるとこの1年間で129万部も減らした。
     中でも今年創刊150年を迎えた毎日新聞は、昨年7月に200万部の大台を割り込み、「全国紙」の看板を下ろしつつあるとの見方が出ている。本書はそこで30年余りの記者生活を送った著者の生々しい体験的メディア論ともなっている。
     新聞協会賞を最も多く受賞してきた毎日新聞で何が起きているのか。その根源は経営の悪化を理由とする「極端な人減らし」にある。著者は、入社した1980年代に比べると記者の数がほぼ半減したと明かす。地方の取材網は最も打撃を受け、通信部と言われる1人支局は次々に閉鎖、かつては記者が7~8人いた通常の支局も支局長を含めて3~4人という所が珍しくなくなった。これにより、現場に記者を出したくても出せないなどの弊害が目立つようになった。
     しわ寄せは新人記者の教育にも及ぶ。「支局に配属してサツ(警察)回りから始める」というのが昔ながらの新聞社の記者教育だが、人手が足りないため通常の支局ではそれも難しくなってきている。
     「デジタルファースト」の弊害も噴出している。速報性や読者の求める話題が最優先され、内容よりアクセス数が重視される。記者たちはSNSなどネット情報の確認に消耗していく。動画の撮影優先で本来の現場取材が手薄になった…。
     毎日新聞は2010年に共同通信から国内も含む全てのニュースの配信を受けることになったが、これは記者を駄目にする「甘い蜜」だった。現場の記者たちは共同原稿に頼ることに抵抗を感じなくなっていった。特ダネに対する執着も低下していき、ある会議で編集幹部が「抜かれても、落してもいいから記者を休ませろ」と指示するケースまで起きた。
     本書で書かれていることは、程度の差こそあれ他の新聞社にも当てはまる。例えば記者教育について、朝日新聞OBの依光隆明氏(「プロメテウスの罠」で新聞協会賞受賞)はこの3月、調査報道専門の記者集団「Tansa」のサイトに一文を寄稿し、朝日新聞の支局の例を挙げながら「(全国紙では)新人記者を一人前に育てる余裕が急速に落ちているのだ。地方紙でも同様の現象が起きている」と指摘した。
     では「危機の新聞」や「瀬戸際の記者」はどうすればよいのか。著者は最後の章で「高い信頼性を維持している限り、新聞が社会から消えることはない」と精いっぱいのエールを送っているが、具体的な解決策にまでは触れていない。
     新聞社が公共の利益のために報道活動を行うという社会的使命を今後も果たしていくためには、紙の新聞に代わる収入源を報道分野で見いださねばならない。幾つかの全国紙では「紙」の収入はあと10年ほどで限りなくゼロに近づいていくとみられる。現状では有料のデジタル版を主たる収入源に育てるしかないと考える。記者が生き残るには、月並みだがデジタルや調査報道のノウハウも含めて取材力を高め、フリーになってもやっていける力を身に付ける必要があるだろう。



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