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    アーカイブ メディアウオッチ100 2024年12月27日第1858号 井坂 公明
    「取材協力」の落とし穴-共同通信の「生稲氏靖国参拝」誤報
     共同通信は、自民党の生稲晃子参院議員(現外務政務官)が2022年の終戦の日に靖国神社を参拝したと誤って報じた問題で謝罪し、再発防止策や関係者の懲戒処分を発表した。この誤報は他社との「取材協力」の中で、他社情報をうのみにし自社による裏付け作業を怠った結果生まれたものだ。共同通信は取材協力のいわば落とし穴にはまった格好だが、取材協力の範囲を安易に広げること自体にも危険が潜んでいるのではないか。
    情報共有したNHK、時事通信は記事化せず
     22年8月15日、共同通信は生稲氏が靖国神社に参拝したとの記事を配信した。この報道が一因となり、24年11月24日、生稲氏を政府代表として開催された世界文化遺産「佐渡島の金山」の労働者追悼式に、韓国政府関係者が参加を見送る事態につながった。生稲氏は佐渡金山での式の後、記者団に参拝を否定、それ受けて共同通信は社内で調査を行い、誤報と認めた。
     新聞・通信社などの既存メディアは常々、SNS(交流サイト)などのネット空間には玉石混交の情報があふれているのに対し、新聞社などはきちんと裏取りをして報道しているので信頼できると力説してきただけに、今回の誤報は既存メディアの信用を失墜させる結果となった。地方紙からは「読者だけでなく政府に頭を下げるような事態を招いた責任も大きい」と厳しい声が上がっている。
     共同通信が加盟社に送った誤報の経緯を説明した文書「生稲晃子参院議員の靖国神社参拝報道について」(11月26日付)や再発防止策を盛り込んだ文書(12月5日付)、関係者の話などによると、22年8月15日には靖国神社に記者1人を配したが、敷地が広く主な出入り口が3カ所あり、早朝から夕方まで政治家の出入りをチェックする必要があったため、首相動静の取材などで協力してきた時事通信、NHKと組み、グループLINEで情報を共有した。午前10時8分に時事通信の記者から「1007稲田朋美、生稲議員入りました」との情報が入った。目視による情報だったとみられる。これを受け共同通信の記者は「参拝を確認できたメンバー」として生稲氏の名前も列挙した取材メモを作成、政治部はこれを基に「自民・生稲氏ら20人超が靖国神社参拝」との記事を配信した。しかし、情報を共有したNHKと時事通信は記事化しなかった。
    現場記者への原稿のフィードバックもなし
     22年当時はコロナ禍の最中で、マスク姿の国会議員が多く、時事通信の記者(既に退社)が新人だったという不運な要素もあった。
     しかし、取材メモには「他社情報」「未確認」などの注釈はなかった。また、メモを作成した記者は記事が配信されたことを知らなかった。写真や動画で目視情報を補完、裏付けする発想も乏しかった。
     自民党の稲田朋美衆院議員らが「生稲氏はいなかった」と述べたことやNHKから「映像確認した結果、生稲氏は映っていなかった」との情報が提供されたことを受け、共同通信は24年11月25日夜、生稲氏が参拝した形跡はなく、記事は当日、神社で取材を分担し、情報を共有していた他社の記者の誤った目視情報をうのみにし、共同通信として必要な確認を怠ったことによる誤報であると認め「おわびと訂正」を配信した。
    「共有情報は未確認情報」として扱う
     共同通信は12月5日、再発防止策として①他社との取材協力は必ずしも否定しないが、共有される情報はあくまで未確認情報の一つとして扱い、共同通信として報道する場合には裏取りや確認を前提とする②取材メモは、自社で確認した情報か他社の未確認情報かを明確に区別する③出稿担当デスクやキャップは取材に当たった現場の記者に原稿をフィードバックして確認を尽くす④取材メモに加え、写真や動画などのビジュアル、音声で記録を残すことも励行する⑤再発防止策を社内に広く周知し、記者らの研修に今回の事例をモデルケースとして取り入れるーの5項目を公表した。
    取材協力に頼りすぎるのは危険
     共同通信は経緯を説明した文書の中で、首相の動静をチェックする「総理番」での時事通信との情報共有について「共同通信社と時事通信社が代表して取材する『共同・時事方式』を続けています。この方式では基本的に『時事通信社が取材した内容は共同通信社が取材したものとして扱える』ことになっています。逆も同様です」と指摘。その上で、02年に新しい首相官邸となって、総理番の取材がエントランスでの出入りのチェックと首相執務室前の様子が分かるモニターのチェックなどに分かれ、より情報共有が必要になったという事情もあると強調し、「報道各社が共同・時事方式に基づいた情報を共有することもあります。靖国神社での取材については首相の動静に絡むわけではありませんが、この考えの延長で情報を共有していました」と釈明した。
     筆者は1980年代に時事通信の総理番記者として大平正芳、鈴木善幸、中曽根康弘の3人の首相を取材した経験がある。総理番は首相が誰と会ってどういう話をしたかを取材して首相動静として配信する。首相と会って帰る人に話を聞き、首相にもその人とどういう話をしたのかを質問する。双方への直接取材・確認が大原則だ。
     靖国神社での取材は、目視情報も認めていたのだとすれば、総理番の取材とは質的に異なることになる。総理番の考え方の「延長線上で情報を共有した」のはやや安易だったのではないか。
     5項目の再発防止策を厳格に実施すれば誤報は防げるとは思うが、他社との安易な取材協力は原則として行わないこととし、例外的に行う場合は目視ではなく直接取材に限るなどの条件を事前に厳密に詰めておく必要があるだろう。(了)



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