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アーカイブ サンデー毎日 倉重篤郎のニュース最前線 2025/02/09 倉重 篤郎
憂国の元外務審議官・田中均が語るトランプ防衛策 石破少数与党は大連立で足場を固めよ
再びのトランプ時代。早くも、本気か駆け引きか恫喝か分かりにくいトランプ流が時代を席巻しつつあるが、日本の私たちには深刻な状況といえる。いまのアメリカといかに対峙すべきか、どう国益を守ればいいのか、田中均元外務審議官が英知を絞り抜く。
世界は、そして日本は、トランプ2・0(2期目)暴風をどう乗り切るか。石破茂少数与党政権は日本外交をどう刷新すべきか。田中均元外務審議官に聞く。
第一に、外交官としての実績だ。1980年代から2000年初頭にかけて、日米間の政治、経済、安保上の節目の時期に、懸案解決に従事した。外務省北米二課長時代には、貿易摩擦解消のための日米半導体交渉を担当し、北東アジア課長時代には北朝鮮による大韓航空機爆破事件に遭遇、94年の朝鮮半島核危機における危機管理を手がけ、米朝枠組み合意後のKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)設立の日本側実務責任者を務めた。97年には北米局審議官として日米防衛協力の新指針を作り、日本への直接攻撃だけではなく周辺事態の米軍の戦闘活動に対しても自衛隊が後方支援できる仕組みに変えた。
02年にはアジア大洋州局長として、1年がかりの秘密交渉の末、小泉純一郎首相の訪朝という大外交を仕切った。拉致問題先行だと失敗するとの教訓に学び、ミサイル、核開発問題の解決も含めた大きな絵を描き、最終的には日本の植民地支配に対する反省とお詫(わ)び、経済支援にまで言及した文書(日朝平壌(ピョンヤン)宣言)をまとめ、国交正常化の一歩手前まで段取りした。小泉氏がそのシナリオに乗って、5人の拉致被害者を取り戻し、金正日(キム・ジョンイル)氏に拉致を認めさせ、謝罪の言質まで手にした。訪朝寸前に米国の了解を取ったが、ほぼその助けを借りぬ独自外交だった。戦後外交史の中で数少ない成功例の一つであろう。
第二に、そのバランス感覚と歴史観である。日米交渉の最前線に身を置き、数々の同盟強化シナリオを練り上げてきた一人だが、米国側の言いなりになる対米従属官僚とは一線を画した。日朝交渉でもギリギリまで日本の独自外交に執着、米国の一極支配が崩れていく中で、日米関係は日本外交の基軸と唱えているだけでいいのか、という問題意識から、米国に対しても強みを持ち、積極的に意見する外交を提起している。日本外交の原点は朝鮮半島にあり、過去の日本による植民地支配という歴史認識を重視する立場でもある。
第三に、その憂国の情であり、発信への熱意である。なぜアベノミクスの結果、日本経済は1200兆円を超える財政赤字を抱え、円安による物価上昇の悪循環から抜け出せないのか。なぜ、これら諸懸案を解決すべき政治が機能しないのか。自民党は裏金問題でボロボロ、日本の国益のために米国に物申す人材を輩出できないし、野党も、日米基軸と言うだけで済ませようとしている。これでいいのか。そんな思い、怒りを毎週のようにYouTube「田中均の国際政治塾」で発信している。
現在78歳。昨年は米国大統領選を現地で取材、本誌でも、米国の分断は深刻で、トランプ大統領再選を促す構造要因はあるが、米国民は結果的にはカマラ・ハリス民主党候補を選ぶであろうと予測(24年8月18―25日号)していただいた。ここから入りたい。
「昨年の訪米時点でも、米国内の深刻な分断には気付いていたが、政権交代のたびに分断が深掘りされ、拡大再生産されていくダイナミズムまでは認識できていなかった。今回は、白人保守層がこのままでは自分たちは少数民族に転落する、との恐怖にかられ、性差解消や移民受け入れなどリベラルな(寛容性の高い)政策を追求していく余裕がなくなっていた。オバマ、バイデン、ハリスのリベラリズムへの反動により、選挙結果が大きくブレた」
「大統領令、演説からすると、米国がよって立つ理念を悉(ことごと)く否定、アメリカンドリーム的な、移民でも誰でも自分の力で幸せになれる寛容な国というイメージがなくなった。普通の国になってしまった印象だ。紛争防止や貧困からの解放など、高邁(こうまい)な理念を掲げ、実現していくのが米国の魅力だった。しかも、それは国際市場拡大などを通じ長い目で見ると米国の利益にもつながっていた。トランプ米国は自国第一という短期的利益を優先、長期的射程を持ったウィンウィンの政策が展開できなくなった」
「パリ協定、WHOからの脱退を表明、関税を政治的武器に保護貿易化も厭(いと)わない、という姿勢だ。自由貿易の拡大、人権擁護、地球環境保護など、第二次大戦後80年かけて作ってきたリベラル・インターナショナル・オーダー(国際的自由秩序)が崩壊の瀬戸際に立たされている。我々が目標として、米国だから仕方ないと思い、ある場合には追随してきた米国的なものがもはや存在していないということにもなる。世界にとり大きな損失であり、なかなか元に戻る目途もない」
「なぜそうなってしまったのか。原点は01年の9・11世界貿易センタービルテロ襲撃事件にあるのではないか…
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