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アーカイブ サンデー毎日 倉重篤郎のニュース最前線 2025/09/06 重 篤郎
倉重篤郎のニュース最前線 石破続投 森友事件解明は民主主義の使命 立憲・川内博史が証拠をもって再告発
稀代の権力犯罪・森友事件は、犠牲となった赤木俊夫氏の妻の闘いなどにより、さらに実像が明らかになってきた。石破政権下で開示されつつある関連文書の全文解読に挑む衆院議員・川内博史氏と、加計事件の証言者・前川喜平氏が、改めて森友事件の責任体系を告発する。
ことの真相解明は、別々の分野の何人かの努力が、重なり合って、大きく前進することがある。
安倍晋三政権で起きた「森友事件」の解明もまた、そのレールに乗り始めたのではなかろうか。少なくともそう期待したい。
事件は、2016年6月、大阪府豊中市の国有地が、大阪市内で幼稚園などを経営していた学校法人「森友学園」の新規小学校用地として、払い下げられたところから始まった。
普通の払い下げではなく、いくつもの特例扱いが行われていた。まずは、売り払い前提の定期借地方式、いわゆる公共随意契約が採用された。次に、瑕疵(かし)担保責任の免除特約が行われた。また、売買への移行に際して延納の特約も認められ10年間の分割払いとなった。さらには契約金額非公表という、国の財産処理にはあるまじき措置までついた。いずれの特例も前後数年間で認められたのはこのケースだけだった、という特例中の特例案件だった。
これらのことはすべてその後の国会での追及で明らかになったことだが、最も疑念を深めさせたのは、安値払い下げであった。
払い下げ8カ月後の17年2月9日、朝日新聞が「学校法人に大阪の国有地売却 価格非公表、近隣の1割か」とスクープした。契約金額不公表と、新設小学校の名誉校長が安倍氏の妻・昭恵氏となっていたことを怪しんだ朝日新聞が、周辺土地価格や税務資料などから超安値売却の実態を炙(あぶ)り出した。それを受けて政府側がしぶしぶ発表したのは、鑑定価格9億5600万から、ゴミ撤去費用なる8億2000万円が値引かれ、1億3400万円で売却された、という事実であった。
これが森友事件第一の疑惑である。学園の籠池(かごいけ)泰典前理事長が「神風が吹いた」と言う特別扱いだった。首相の妻と籠池氏が親しく、小学校名誉校長まで引き受けたこととの因果関係がどこまであったのか。8億円の値引きの合理性もいまだに立証されていない。
朝日報道を受けて、国会では野党側が一斉にこの問題を追及。安倍氏が「私や妻が、この認可あるいは国有地払い下げに、もしかかわっていたのであれば、総理大臣も国会議員もやめる」と答弁したのが、2月17日の衆院予算委だった。ここで森友事件は、単なる国有地売却特例・値引き問題ではなく、1強時代を謳歌(おうか)していた安倍政権にとって、場合によってはその進退に関わる政局問題にグレードアップしたことになる。
ここから第二の疑惑、財務省の決裁文書の改竄(かいざん)事件がスタートする。菅義偉官房長官が土地売却に関わった財務省、国交省幹部を呼んで二度にわたり報告を受けたのが、22日の昼と夕。その改竄作業の末端を担わされた財務省近畿財務局職員の赤木俊夫氏が、妻雅子氏らと日曜日に散歩中に急遽(きゅうきょ)呼び出されたのが26日だった。安倍氏やその妻が関与した、と受け取られるような文書上の記述について、担当の本省理財局、出先の近畿財務局をあげて総点検、その結果4月までに14件の決裁文書が極秘裏に改竄されることになる。
7月5日、財務省定期異動で佐川宣寿理財局長が国税庁長官に昇進、後任は太田充官房総括審議官が就任した。10月の衆院選では安倍自民が大勝、森友事件どこにいったの感があった。
局面を一転させたのが、また朝日新聞のスクープだった。18年3月2日、決裁文書の記述の変化に気付き、「問題発覚後に書き換えられた疑い」があると報じた。国民の土地財産の縁故安売りに加え、国民の知的継承財産である公文書、その中でも決裁印までついた文書の改竄が、霞が関ヒエラルキーでもトップの財務省で行われた、とのニュースは衝撃的だった。7日、赤木俊夫氏が自殺した。公文書改竄を命じられうつ病になり休職中だった。財務省も改竄の事実を認めざるを得なかった。佐川氏は3月、国税庁長官を辞任、6月、財務省は調査報告書をまとめ、「連日の国会審議で疲弊した財務省職員が、議論の材料を増やさないために書類を改竄した」と説明、職員20人を処分した。
これに納得しなかったのが赤木雅子氏だった。「夫の死の真因を知りたい」と二つの訴訟を起こし、国を追い込んでいく。損害賠償訴訟では、国は途中から一転「認諾」の手続きを取り、約1億円の賠償請求を受け入れた(21年12月)。「認諾」とは、被告側が原告の請求を正当と認め、裁判を終わらせることで、事実上国の敗訴とも言える。もう一つの関係資料の不開示決定取り消しを求める訴訟では、1審大阪地裁では請求棄却だったが、2審の大阪高裁控訴審では逆転勝利、不開示決定が取り消された(25年1月30日)。開示請求対象を「大阪地検特捜部に任意提出された資料」に絞った雅子氏と弁護団の熱意と知恵が優った。
とうとう国も折れる。25年2月6日、石破茂首相が加藤勝信財務相、鈴木馨祐法相を呼び、大阪高裁判決を受け入れ、上告を断念するよう指示、3月4日、加藤氏が文書開示することを明らかにした。総量は17万ページ、2カ月に1回、1年越しで順次開示する。すでに3回開示、4月には森友学園との土地取引に関する文書、6月には赤木俊夫さんの手元に残されたノートなど。直近の8月13日には本省と近畿財務局の職員が手元に残していたメールや文書、約1万8000ページが電子データで提供された。
こうみてくると、朝日新聞の2回にわたる報道、国会審議、赤木雅子氏の一念と弁護団の訴訟、司法の良心、最後は政治家の決断という、民主主義を構成するいくつかの要素が、真実の追及、公正・正義実現のため、一つの方向性を作り出し、それが17万ページ公文書開示という、前代未聞の「知る権利」への回答を引き出したと言える。さて、問題は、膨大な文書をどう読み解き、真相解明への道をさらに切り開くか、である。
川内博史衆院議員(立憲)に聞く。この問題を誰よりも長く、深く追及してきた人である。成果もあげている。改竄の起点になったと思われる17年2月22日の菅官房長官を軸とした2度の財務、国交両省との会合を割り出した。国会でネチネチ何度も質疑することで認めさせた。今回も「17万ページ開示」の報に対し「すべてのページに目を通す」と宣言、地元に戻る日以外は1日3、4時間、読み込みに没頭し、成果が出ると、ネットに流し共有している。
「一つは、佐川理財局長の改竄の指示が明確になった。財務省報告書では、佐川氏が『改竄の方向性を決定づけた』となっている。佐川氏が『そんな文書を外に出すのはまずいね』と反応したと書いてある。上司が部下にそう言えば、一般的には指示した、と言うべきだが、財務省はそこを頑(かたく)なに認めてこなかった。佐川氏が指示したとなると、その上からの指示はどうなっているのか、となる。下のものが勝手にやった、なんとなくそうなった、という形にしたかった」
「ところが、17年3月20日付で本省から財務局への次のメールが出てきた。『本日売払い決議について、局長説明を行いましたが、局長からの指示により、調書につきましては、現在までの国会答弁を踏まえた上で、作成するよう直接指示がありましたので、改めて、調書を修正後、局長説明を行う予定です。今後とも宜しくお願いします』。これをどう読むか。国会答弁を踏まえた上でというのは、嘘に合わせろということだし、修正とは、いわゆる改竄のことだ。改竄後また局長説明を行う予定とも書いている。指示を受けて文書を修正・改竄し、もう一回見せてこれでよろしいかと理財局長に確認を取るわけだから、財務本省的には報告連絡相談という業務の流れとして、仕事として改竄した証左になっている」
「佐川氏は国会での証人喚問でも、訴追の恐れあり、を理由に一切語っていない。今回このメールで指示関係が明確になったことで、改めて佐川氏本人に質(ただ)す重要なタイミングになったと理解している。なぜ改竄の指示を下したのか。公務員倫理上どう考えたのか。その際財務省内部ではどのような組織的議論が行われたのか。これだけの大事を官房長や次官にも諮らずに行ったとは思えないが、その点はどうだったのか」
「当然あったと思うが、現段階では推測になってしまう。佐川氏が理財局の配下に指示したことをまず確定する。順を追ってやらないと全容解明はできない」
「メンバーは菅氏と財務省は理財局の佐川局長、中村稔総務課長と太田充官房総括審議官。国交省は航空局次長と総務課企画官だ。昼に官邸で、夕刻には議員会館の菅氏の自室で2度にわたり行われた。国会質疑で明らかにしたことだが、太田氏が自らのこの会合への参加を最後まで言い渋っていたのが印象的だった。官房としての関わりの印象を避けたかったのかもしれない。菅氏の2月24日の記者会見も気になる。森友学園と財務局側の面会記録について記者に質問され『決裁文書については30年間保存しているわけですから、そこにほとんどの部分が書かれているんじゃないでしょうか』とわざわざ決裁文書に触れている。改竄後の問題のなくなった決裁文書を念頭にした発言ではなかったのか」
「問題発覚後に会計検査院が検査に入るが、近畿財務局が検査院とのやり取りを予(あらかじ)め本省に報告しチェックを受ける過程の文書に、財務局側の対応の不手際を本省側が指摘するくだりがいくつか発見できた。一つは、土地売買に際し最終的に見積もり合わせをしなかったことに対し『誤った法令上の解釈を維持しているので留意する必要あり』と指摘、ゴミ撤去費用8億2000万円について、財務局が検査院に対し『妥当性の検証は行っていない』としたことに対し、本省側は『敢(あ)えて言う必要はあるのか。妥当性の検証も行ってないのになぜそのまま価格に反映させたのかとの二の矢が飛んでくる恐れあり』とコメントをつけている。内部のやりとりからも、法令違反や妥当ではなかったとの認識が滲(にじ)んでくる」
「大量の文書を読んでいくうちに、その文書が出てくるまでの経過が手に取るように見えてきた。例えば、外向けに財務局が起案した文章で『本省との協議や指示を受けつつ事務処理を進めてきました』というくだりを本省側が見え消しで『本省に相談しつつ事務処理を』と直すなど、本省関与の最小化を図ろうとしている。それにしても財務省とは凄(すご)い役所だ。こんなところまで微に入り細に入りやっている人たちがいる」
「2017年2月の朝日スクープ以来だ。国有財産を売って価格不公表はありえない。絶対何か背景がある、と調べ始めた。その時私は落選中だったが、これは情報開示請求しなければならないと、近畿財務局、財務本省の窓口に赴き、一市民として開示請求した。その年の10月の衆院選で現職に復帰、直後の予算委で太田理財局長に質疑した。会計検査院報告書が出た直後だった。値引きに安倍夫妻がどう関与しているのか明らかにしなければと思った。予算委の後、安倍氏が私に…
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