|
アーカイブ フェロー・早田 秀人 エッセイ「思索の散歩道」 2024/05/06
著述家・翻訳者として活躍している里中哲彦さんが、大変面白く同時に深く考えさせられる本を現代書館(東京・飯田橋)から上梓しています。
題して「黙って働き、笑って納税~戦時国策スローガン傑作100選」は2022年2月に始まったロシア大統領プーチンのウクライナ侵略戦争の自らの”正当性”を訴え、ロシア国民へ向けた「叱咤・檄文」といっていいほど相似性に満ちています。
冒頭の一文「権利は捨てても義務は捨てるな」を紹介します。
昔むかし、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。二人はそれぞれの「義務」と「権利」をもっていました。お爺さんは山に芝刈りに出かければ、その日は晩酌をしました。お婆さんは川へ洗濯に行けば、そこで歌を詠みました。ところが、政府がいきなり「権利」は捨てろといってきたので、二人には「義務」だけが残りました。こうしてお爺さんとお婆さんには、のんびりと酒食をたのしんだり、ゆったりと花鳥風月とたわむれる時間がなくなってしまいました。そして教訓――義務と権利は表裏一体である。「義務のない権利」や「権利のない義務」はあってはならない。
この教訓、言われてみれば「その通り」と肯かざるを得ないのですが、少しばかり違和感があります。そもそも政府がいきなり権利を捨てろと何故言えるのでしょうか。国民は権利と義務が表裏一体であると知っています。それはいかなる強権をもった為政者にも侵すことはできません。そうしたことが日常茶飯事で行われる人治主義が横行する国では、国民は未来への希望はもとより現在自分に許されている「存在価値」は全く無いに等しいことになってしまいます。
もう一つ「戦時国策スローガン」を紹介しましょう。「暇をつくらず、堆肥をつくれ」
このフレーズを変え「暇をつくらず、武器をつくれ」としてみましょう。こうすれば、現在プーチンが声高に叫んでいる国民への叱咤・檄文に通じるのではないでしょうか。
そしてこの叱咤激励は「笑顔で受取る 召集令」というスローガンにつながっていくことになり、トドのつまりは、「国策に理屈は抜きだ実践だ」というスローガンに帰着します。
国益になるための方策を国策という。ゆえに、国策は理をつめながら推し進められなければならない。国策だからといって批判は一切ゆるされないというのは、あきらかな言論弾圧である。国家が権威への批判をどのレベルまで許すかが、その国の民衆の忠誠心をどの程度までつかんでいるかについてのもっとも確実な指標であろう。昭和16年3月、660点という出版物が一括発禁になり、雑誌ジャーナリズムにおいても“理屈”を並べる雑誌は情報部から目をつけられた。あげく、「改造」をのぞけば、ほとんどすべての雑誌が、権力の意志を代弁するイデオローグの役割を担った。
願わくば、ロシア国民が戦時日本の“轍を踏むこと”のなからんこと。
そして、“ウクライナ戦争”終戦が一日も早く訪れ、世界各地で広げられている戦争や内乱・紛争が終息し総ての人々が“真の平和”を享受しなくてはならないと強く訴えます。
| |
|