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アーカイブ フェロー・早田 秀人 エッセイ「思索の散歩道」 2024/09/09
生物は食べ物を体内に取り入れ消化・吸収し、生体の新陳代謝の末に残渣を身体外部へ排出、生命を維持し種の保存を図っています。
ところで人類は、狩猟・採取から農耕経済へと文明を発展させ、飢餓から解放されるとともに都市が生まれ、経済をより発展させてきました。今日、多様化された経済の下で人々はさらなる豊かな生活を求め、日々さまざまな生産・消費を繰り返しながら、負の副産物であるゴミを際限なく排出し続けています。
人類を含めすべての生き物は「バイオーム(biome)」と言われる気候帯の生態系に依拠し生命活動を営んでいます。バイオームとは、その地域に生育している動物や植物、土壌中の微生物にいたるまですべての生き物をまとめ、グループ分けした生物群系分類のことで、世界のバイオームは、熱帯多雨林・亜熱帯多雨林、雨季緑樹林、照葉樹林、夏季緑樹林、硬葉樹林、針葉樹林、サバンナ、ステップ、砂漠、タイガ、ツンドラなど気候帯に応じて特色づけられています。地球上には、それぞれの気候帯に育まれた多種多様な生き物の環境があり、相互依存しながら気候帯特有の生態系を形成しています。
私たちはバイオームの下、自然の脅威を回避し、逆に恵みを享受するため先人の知恵を引き継ぎ、安全・安心、便利な生活を不断に追求、今日に至っています。
現代の文明社会は、気づかぬうちに世界中のあらゆる地域で生態系が持つ自浄処理回復能力をはるかに超える負の生産物であるゴミを大量に撒き散らしています。
世界銀行の報告書「What a Waste 2.0:2050年に向けた世界の固形廃棄物管理の現状と展望」(ワシントンDC、2018年9月20日)によれば、世界の国々が、ゴミ問題に手を拱き続ければ、急速な経済成長や都市化、人口増加により固形廃棄物量は年間20億トン(2016年)から2050年には34億トンに急増すると予測しています。
固形廃棄物の中でもプラスチックゴミは、特に大きな問題となっています。適切に回収・処理されなければ、何百年もの間、生態系に悪影響を及ぼし続けることが目に見えています。2016年、世界では2億4,200万トンのプラスチックゴミが発生していますが、同数値は固形廃棄物全体の12%に相当します。
「What a Waste 2.0」は持続可能で健全かつ包摂的な都市やコミュニティにとって固形廃棄物管理の重要性を強調しているものの、低所得国においてはその管理が見落とされがちだと指摘しています。 高所得国の廃棄物の3分の1以上がリサイクルと堆肥化によって回収されていますが、低所得国では廃棄物のわずか4%しかリサイクルされていないのが実状となっています。
世界銀行報告書は、固形廃棄物の管理、資金調達、政策、計画立案を決定するにあたり、各国を支援することが重要とし、以下3つの解決案を提示しています。
①最先端の廃棄物管理システムを開発するために、ほとんどの国、特に最も急速に成長している国々に資金を提供する。
②包括的な廃棄物削減とリサイクルプログラムを通じ、主要排出国のプラスチックゴミおよび海洋ごみの削減支援を行う。
③消費者教育、有機物管理、調整された食品廃棄物管理プログラムを通じて食品廃棄物を減らす。
ところで、わが国の廃棄物を含むすべての物質フローについて、環境省は2019年における国内生産、輸入、循環利用を含む年間総物資投入量は14.98億トン、これに対し生産・生活で産出された内訳は、輸出1.79億トン、蓄積純増4.54億トン,エネルギー消費および工業プロセス排出4.77億トン,食料消費1.86億トン,廃棄物等の発生5.46億トンとし、廃棄物5.46億トンの内訳は、自然還元0.76億トン、減量化2.22億トン、循環利用2.35億トン、そして最終処分は0.13億トンであることを明らかにしています。
日本は世界でもっとも焼却処分によるゴミの減量化が進んでいる国とされているものの環境省は、2016年のデータに基づき「2040年にはゴミを埋め立てる最終処分場が満杯になり、ゴミを埋め立てられなくなる」と懸念しています。
加えて環境省は、の国際エネルギー機構(IEA)の2023Editionを基に、世界のエネルギー起源のCO2排出量を算出していますが、それによると2021年で約336億トン、国別排出量は、多い順に中国、アメリカ、EU(27カ国)、インド、ロシアと続き、わが国は6番目に排出量が多い国となっています。上位10位までの国別排出量(億トン)と全体に占める割合(%)は;中国106.5(31.7%)、アメリカ45.5(13.6)、EU25.8(7.7)インド22.8(6.8)、ロシア16.8(5.0)、日本10.0(3.0)、イラン6.4(1.9)、韓国とインドネシアが5.6(1.7)、カナダ5.1(1.5)となっています。
ここでいうエネルギー起源のCO2排出量とは発電や加熱・冷却等でエネルギーを消費、利用するために、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を燃焼する際に発生する二酸化炭素(CO2)排出量のことですが、日本の温室効果ガスの排出量のうちエネルギー起源のCO2は約85%を占めています。
わが国が制定している廃棄物に関する基本法「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(清掃法:昭和45年法律第137号)は、第2条で、「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体、その他の汚物又は不要物であって、固形状または液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く)をいう、と定義しています。「循環型社会形成推進基本法」(平成12年6月2日公布)では、形成すべき“循環型社会”の姿を、 [1]廃棄物等の発生抑制、[2]循環資源の循環的な利用及び[3]適正な処分が確保されることによって、天然資源の消費を抑制し環境への負荷ができる限り低減される社会と明示、さらに法の対象となる廃棄物等のうち有用なものを「循環資源」と定めています。
つまり法の対象となる物を有価・無価を問わず「廃棄物等」とし、廃棄物等のうち有用なものを「循環資源」と位置づけ、その循環的な利用を促進することを明示しています。さらに同法は処理の「優先順位」を法定化、発生抑制>再使用>再生利用>熱回収>適正処分と順位付けしています。
さらに昭和45年に制定された「水質汚濁防止法」は。液体の廃棄物である廃水について公共用水域及び地下水の水質汚濁の防止を図り、もって国民の健康を保護するとともに生活環境の保全等を目的として、工場や事業場などから排出される水質汚濁物質について、物質の種類ごとに排水基準を定めています。
平成24年の法改正により、有害物質による地下水の汚染を未然に防止するため有害物質を使用・製造・処理する施設の設置者に対し、地下浸透防止のための構造、設備及び使用方法に関する基準の遵守、定期点検及びその結果の記録・保存を義務付ける規定等が新たに設けられました。
わが国では、昭和43年に国民の健康を保護するとともに、大気環境を保全することなどを目的とした「大気汚染防止法」が制定されています。大気汚染防止法では、固定発生源(工場や事業場)から排出又は飛散する大気汚染物質について、物質の種類ごと、施設の種類・規模ごとに排出基準等が定められており、大気汚染物質の排出者はこの基準を守らなければならないとされています。
昨今、生産活動や日常生活に伴う廃棄物に加えて。新たなゴミが世界的に注目されています。福島第1原発の事故以来関心を集めている「核ゴミ」、ウミガメや魚の内臓から残留物として取り出された「海洋プラスチックゴミ」、寿命が尽きた軌道上の人工衛星を中国がロケットで破壊、破片が宇宙空間に飛散したことで問題化した「宇宙ゴミ」などでこれら3種類のゴミは今のところ清掃法やその他環境保全関連法の対象外となっています。
放射性廃棄物は、高レベル放射性を有するものと、使用済みとなった防護服など低レベルのゴミがあります。
日本では、発電用原子炉の運転に伴って生じた使用済燃料の再処理において、ウランやプルトニウム等を取出した後に残る廃棄物は、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(最終処分法;平成12年法第117号)で処分方法が決められています。
高レベル放射性を有する特定放射性廃棄物は、使用済燃料の再処理により生じる放射能レベルの高い廃液をガラス固化体にしたものです。なお、再処理せずに使用済燃料を直接処分する場合、使用済燃料そのものが高レベル放射性廃棄物となります。高レベル放射性廃棄物である「核ゴミ」は、初期段階では10数秒被ばくすると死に至る極めて強い放射線が出ており、数万年にわたり人が生活する環境から隔離する必要があります。そのため、国は金属製の容器に入れ“地下300メートルより深く”に埋める「地層処分」する方針を決定しています。
しかし、数万年も安定して核のゴミを保管できる地層については専門家といえども特定できていません。今のところ各原発構内で“仮置き”しているというのが実状です。
核ゴミのもう一つの問題。2011年3月の原発事故で福島第一原子力発電所の1~3号機はメルトダウンを起こし、核燃料が溶け落ちて炉内の構造物と混ざりあって生じたデブリがあります。その量はおよそ880トンあると推計されています。
2024年8月22日、このデブリが計画から3年遅れで試験採取されることとなりました。採取量は耳かき1杯分の3グラムと見込まれ、2週間ほどかけて採取する予定でした。極めて高い原子炉内の放射能を遮断する隔離弁等装置の中、釣竿状のロボットアームを順次継ぎ足し採取する手筈でしたが、操作手順に誤りが発覚し同日中の試験回収は中断され延期を余儀なくされました(日経新聞2024年8月20日、22日、23日)。デブリ量880トンは、試験採取装置の能力から推量すると、完全除去するまでには途方もない時間を要することが分かります。
環境省「海洋ゴミをめぐる最近の動向」(平成30年9月)によれば。海洋ゴミの約66パーセントがプラスチックゴミで占められています。同省は、毎年海洋に流出するプラスチックゴミのうち2?6万トンが日本から生じたものと推計し「このままでは2050年の海は、魚よりもごみの量が多くなるのではないかと思われるほど問題は深刻化している」と警告しています。
野生動物や生物多様性の保全に取り組む公益財団法人WWFジャパン(WWF:1961年にスイスで設立され、100カ国以上で活動している環境保全団体)は「海洋プラスチック問題について「海洋プラスチックは、海の生物たちへも甚大な影響を与えています。これまでに魚類をはじめ、ウミガメや海鳥、クジラなどの海洋哺乳動物など少なくとも700種ほどに被害をもたらしているとの予測があります。この内の92パーセントがプラスチックゴミによる影響で、例えば、ポリ袋を餌と間違え食べてしまったり、漁網に絡まったりして傷つき、死んでしまうことも日常である」(Gaii&Thompson)ことを明らかにしています。
また、プラスチック製品が紫外線による劣化や波の作用などにより破砕され、5ミリ以下の欠片となったマイクロプラスチックの影響も懸念されています。例えば「マイクロプラスチックがサンゴに取り込まれ、その影響でサンゴと共生関係にある褐虫藻が減少する」といった報告もされています。人工的に作り出されたプラスチックが自然界で完全に分解されるまでには数百年以上という途方もない時間がかかり、海における生態系のバランスを崩してしまう可能性があることは明らかです。
さらに、マイクロプラスチックの人体への影響も注目され始めています。
マイクロプスチックを餌と間違えて魚に取り込まれたり、食事を通じて直接人体へ取り込まれたりすることも現実となっています。日経新聞は「2022年欧州の複数の研究チームが人の体内からマイクロプラスチックを検出した」{2023年6月11日}と報じていますが、微粒子の安全性を調べている大阪大学の堤康央教授は「まだ、健康への影響を議論できるに十分な材料がそろっていない」と指摘しています。
国連環境計画(UNEP)は5月にまとめた報告書の中で「プラの生産に係る1万3000種の化学物質の中、少なくとも3200種が何らかの懸念される有害な性質がある」としています。東京農工大の高田秀重教授も「魚で影響がでなくても食物連鎖で人に影響するとどうなるか危惧される」とじています。 まさにマイクロプラスチックの環境問題は人体への健康問題に拡がっていると言ってよいでしょう。
日本経済新聞は「米国カリフォルニア大学サンディエゴ校などは、プラスチックを餌とする微生物を練り込んで、人が使用している間、微生物は眠っているが、使い終わって土に棄てられた後に目覚め、自己分解を始める画期的な素材を開発した。また日本では、群馬大学の粕谷健一教授らが10年ほど前から研究し23年には海で働く微生物入りのプラスチックを発表した。このプラスチックは、劣化して亀裂が生じると埋め込んだ微生物が水や海水が含むアミノ酸などと反応して休眠から覚め分解を始める。ただ、生分解性のプラスチックがCO2と水にまで完全に分解されるかは議論の余地がある。細かくなっただけで微小なプラスチックが残っている可能性もある」と指摘し、「今回開発されたプラスチックもベースとなるポリウレタンは石油由来。サトウキビやトウモロコシを原料に使うバイオマスプラスチックの技術や廃棄物から新製品を作り出す技術などとも合わせ多方面の努力が欠かせない。国際社会は24年末までにプラスチックゴミ削減に関する条約制定に向け動き出す。24年11月~12月に5回目の政府間交渉委員会が韓国で開かれる予定だ」(2024年8月20日)と包括しています。
海洋プラスチックゴミがこのまま増え続けると、分かっている問題だけでも漁業や観光への影響だけでなく、船舶航行への障害、沿岸中間域の環境も悪化します。しかし、地球表面積の7割を占める海洋に対して、海洋プラスチックゴミ汚染が及ぼす影響は、予測できないほど未知の部分が横たわっています。
日本財団、JASTO、(株)リバネスが中心となって展開する「プロジェクト・イッカク」は「海洋ごみ問題の根本は生産、消費、廃棄を原理とする経済システムそのものにある」と考え「これ以上、海にごみを出さない」システムの構築を目指しています。
2019年、プロジェクトは異分野の専門家たちと複数のチームを立ち上げ、「衛星画像による広域漂着ごみ可視化システム」「ドローンによる海岸漂着ごみ解析サービス」「海ごみを代替燃料化する自律分散型エネルギーシステム」「牡蠣パイプごみ及び人工芝ごみの回収・再資源化サービス」など8つのビジネスを開発し。2022年には循環型社会の実現に向け本格的にスタートさせています。環境省とも連携し全国一斉清掃キャンペーンの実施や海洋ごみ対策のモデル事例の発信を行っています。
海洋プラスチックゴミ問題を解決するには、まずプラスチックゴミの発生を削減するとともにプラスチックゴミが海へ流出しないよう事前回収するなど社会全体で取り組むこと
が求められます。問題の根源には、経済社会の広域化・国際化に伴う工業製品や薬品・食品など、流通量の飛躍的増加で使用されるプラスチック製容器の使用後の処理方法に問題があります。
プラスチックゴミを回収・再生には、生産に使われる以上のエネルギーが必要になります。例えば、ペットボトルを石油から作り消費者の手元に届けるまでの石油使用量は、ボトルの大きさによって差がありますが、およそ40グラム。一方、このボトルをリサイクルしようとすると、”理想的なリサイクル“ができたとしても150グラム以上と、4倍近くの石油が必要になってしまいます。
その昔、人間の活動量が小さかった近世以前は、いかなる種類のゴミであれ川に流せば、川が回生し浄化してくれました。ところが、1940年代以降になると人間の消費活動は急拡大し、自然の「浄化・回生能力」を遥かに超えるようになってしまいました。その結果、人間が使用済みとなった廃棄物は川や海に放棄され所構わず蓄積されることになってしまいました。そこで人々は自ら播いた種(廃棄物)の後始末をすべく「循環型社会」(「リサイクル幻想」文春新書・武田邦彦著)という解決策を描き始めました。
循環型社会形成推進基本法は、廃棄物処理の優先順位を法制化し、発生抑制>再使用>
再生利用>熱回収>適正処分とランク付けしています。
循環型社会は「発生抑制、再使用を除いて再生に投入するエネルギーが循環対象となる廃棄物の製造に消費されたエネルギー量を上回る」というエントロピーの法則に反しており、原理的に不合理です。
武田邦彦さんは、真の循環型社会を構築するには「人工鉱山を築く」、「“長寿材料”を選び設計する」、「日本の気候と風土を活用する」など3つの原則を提示しています。いずれにしても、回収・再生するために新たなエネルギーを投入しないことが肝要です。
上述の原則に適うものには、バイオプラスチックがありますが、「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の2種類に分けられます。「バイオマスプラスチック」は、サトウキビやトウモロコシなど植物を原料とする再生可能な有機資源{バイオマス}を利用するプラスチック素材で「生分解性プラスチック」は、土壌などに生存する微生物によって一定の条件下で分解され、最終的に水と二酸化炭素に変化する性質を持ったポリマー(高分子)です。生分解性プラスチックは、自然環境下での分解速度が早いため、海洋プラスチックゴミ問題解決に寄与するところ大といえるでしょう。
結局、海洋プラスチックゴミの問題は、自然環境下でも劣化されずに海岸や海底に散逸、蓄積される石油系プラスチックに対して、バイオプラスチック開発を推進することにこそ解決の鍵があると考えます。
2002年、宇宙空間の人工のおよび自然界のスペースデブリの問題に関連する活動の世界的調整のための政府機関の国際フォーラムである「スペースデブリ調整委員会」(IADC:The Inter-agency Space Debris Coordination Committee)が採択したガイドラインによると、宇宙ゴミとは、「機能していないすべての人工物体(その破片及び構成要素を含む)で、宇宙空間にあるかまたは大気圏内に再突入するもの」としています。
この定義に従えば、正常に動いている人工衛星や人工物ではない惑星間塵(メテオロイド)は宇宙ゴミにあたらないことになります。
宇宙ゴミの移動速度は秒速7~8kmときわめて高速です。このような高速で移動する物体が人工衛星などに衝突すると10㎝以上の宇宙ゴミなら完全に破壊、1~10㎝の宇宙ゴミでは致命的な損傷を与える、と考えられています。
宇宙ゴミは長期間にわたって、軌道上を周回します。滞留期間は高度によって異なりますが、高度600km以下で数10年間、高度900km以上では数千年とさえいわれます。そして高度36,000kmの静止軌道上では永久に軌道上にとどまり続けると考えられています。
宇宙ゴミの中には地球の重力にひかれて大気圏に落下するものがあります。多くは大気圏内で燃え尽きますが、大きさや材質によっては地上に落下することもあります。稼働中の人工衛星は地上からコントロールできますが、運用終了後のもの、故障したものはコントロールできませんから、落下地点に関する制御は不能です。
落下事例としては1978年旧ソ連の原子炉搭載衛星がカナダに落下、また1979年にアメリカの宇宙ステーションの破片がオーストラリアに落下、さらに1997年アメリカのデルタ2ロケットの燃料タンクがアメリカ国内の民家の近くに落下などをあげることができます。
宇宙ゴミのリスクを制御するには、宇宙ゴミの現状把握をしなければなりません。現在、直接監視する方法と統計的手法による分析の2つの方法を用いて宇宙ゴミの動向を監視・観測しています。
高度が比較的低い低軌道の宇宙ゴミは、地上のレーダーにより監視しますが。静止軌道上の宇宙ゴミは、レーダーで観測するには遠すぎるため、光学望遠鏡が用いられています。
レーダーや光学望遠鏡での監視が難しい10㎝以下の小さな宇宙ゴミは、統計的手法によって分析します。実験用衛星を軌道上に一定期間配置し、その間に宇宙ゴミが衛星と接触することで発生する衝突痕などから宇宙ゴミの数を推測する方法です。
宇宙ゴミを回収する手段は研究途上ですが、2000年代に入ってからは、各国が宇宙ゴミ対策の技術開発に積極的に取り組み始めています。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も漁網メーカーと共同で宇宙ゴミ除去技術の開発を進めています。”テザー”とよばれる通電素材のひもを人工衛星に取り付け、宇宙ゴミのスピードを落とし大気圏に落下させる方法です。また、レーザーを照射し、宇宙ゴミと接触せずに軌道を変えて大気圏に安全に落下させる技術の開発も進められています。
宇宙ゴミをめぐる国際的な関心の高まりを受けて、宇宙ゴミ問題を深刻に受け止め、回収・除去は新たなビジネスチャンスととらえ回収に取り組む企業が増えてきました。
2013年に設立された「アストロスケールホールディング」は東京を拠点にグローバルに事業展開、宇宙ゴミを回収するデブリ除去実証衛星を開発しました。2021年8月に同衛星が宇宙ゴミ捕獲に成功するなど成果を重ね、着々と実用化を進めています。実績が評価され同社はJAXAの商業デブリ除去実証フェーズ1の商業パートナーに選定されています。同社はまた2024年末、複数の宇宙ゴミを捕獲・除去できる新たな衛星「ELSA-M」による宇宙ゴミ除去サービスの実証実験を行うとしています。
アストロスケール社は、デブリ除去にとどまらず、衛星への燃料補給、軌道修正などを含む「軌道上サービス」分野の商業化を目指しています。軌道上にあるデブリは直径10㎝超のもので約4万個、1㎝超のものを含めると約114万個あります。デブリ除去の必要性は国際的に認識されつつありますが、ルールや方法などはまだ確立されていません。
2011年に創業し世界初の“人工流れ星”を実現した宇宙スタートアップ企業の「ALE社」は、テザーを利用して運用終了後の人工衛星を軌道から外す方法を採用しています。
さらに、1994年に設立され宇宙事業とメディア事業を展開する「スカパーJSAT社」は、理化学研究所やJAXA、名古屋大学、九州大学などと共同で世界初のレーザーによる宇宙ゴミの除去技術を開発しています。
JAXAは、スペースデブリ(宇宙ゴミ)対策に関し「軌道上のスペースデブリ(宇宙ゴミ)は、年々増加の一途をたどっており、将来的には 人類の宇宙活動の妨げになる。宇宙活動の安全性を確保し、 持続可能な宇宙開発を将来にわたって進めていくために、政府はじめ内外の関係機関との連携強化を進めるとともに、スペースデブリに関する様々な研究開発に取り組んでいます。 さらにスペースデブリを”観る”、” 減らす”、” 除去する”の課題から、新たな市場の創出と国際的な議論を先導し、スペースデブリのないクリーンな宇宙空間の実現に貢献する、というビジョンを掲げています。
私たちは、地球の自然資源を活用し生活の便利さと豊かさを追求してきました。地球の自然を資本とする“成長至上主義”をベースとする経済活動が生み出した果実を享受する一方、母なる地球をゴミという負の生産物で計り知れないほど傷つけていることに思いを寄せ目覚めなければなりません。
ゴミ問題を放置すれば、早晩地球生態系は修復不可能な状態になります。さらに、地球温暖化および海流や偏西風の蛇行による異常気象の頻発、未知のウイルス・パンデミック、ある生物種の大量絶滅、大量発生など予期できない事象が突然起こると同時に、元の状態に戻れない境界点「ティッピングポイント」が迫っている可能性は想像に難くありません。
私たちは、今こそゴミ問題の現実を正しく理解し、日常生活において、日本文化の美徳「もったいない」「足る、を知る」精神に基づいた生活規範を世界に普及させる責任があると思います。
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