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    アーカイブ フェロー・早田 秀人 エッセイ「思索の散歩道」 2024/12/23
    エッセイ「思索の散歩道」
    科学は「何故」に答えられるか
     科学は「仮説と検証」を繰り返すことによって「真実」を突き止めようとする学問ですが、如何に研究をかさねても「真実」を解明することができないと言われています。
     ある研究テーマに関し、実験や観測を繰り返し行って得られたデータは“誤差”を含んでおり2次元と3次元、それに時間軸を加えた4次元座標で結果をプロットすれば「包絡線」や「包絡面」によって、手にした“成果”が真実でありそうなことは明らかにはなるでしょう。
     しかし、研究者が選択した「包絡線」や「包絡面」は研究者の仮説に基づく“意図”が反映されたもので客観的データと言うには難があります。研究者が意図的に選択した「包絡線」や「包絡面」により導かれた法則は、あくまでも研究者の帰納的推論に基づいたものです。
     また、演繹的推論に基づいて真実に迫ろうという数学的手法もあります。
     例えば、1948年にアメリカの理論物理学者ジョージ・ガモフが提唱したビックバン理論「宇宙の始まりは、物質も空間も時間さえもない“無”から始まった」という理論は、有力な仮説とされ、英国の理論物理学者スティーブン・ホーキンスと数理物理学者・ロジャー・ベンローズが、ビッグバン理論に関して「特異点定理」を提唱しています。
     「特異点定理」とは「ビッグバン理論を証明するための理論」で、ビッグバン発生時には巨大なエネルギーが一点に集中し、大きさがゼロで密度が無限大の「特異点」が生じると考え、その証明に“虚時間”という概念を導入しました。ただ、この証明は、あくまでも理論上のことであり、実際には確認する術(すべ)がなく不明な点が多くあるといわれています。
     そこで提唱された理論のひとつに「インフレーション理論」があります。世界に存在するあらゆる物質が加速運動をしており、そこには力が働いています。力は基本的に重力、電磁気力、強い力、弱い力の4つに分類されると考えられています。
     アインシュタインは晩年プリンストン大学で「力の統一場」(電磁気力と重力の統一理論)の研究に取り組んでいます。4つの力とは宇宙誕生直後に次々と分散し現在のような力となって存在したという概念で、いわゆる力の統一理論が最近の宇宙物理学の成果として考えられるようになりました」(「インフレーション宇宙論~ビッグバンの前に何が起こったのか」佐藤勝彦著・講談社ブルーバックス)。
     そして、今では「相対性理論と量子力学を融合させた『超弦理論(超ひも理論)』の研究が盛んにおこなわれています」(野村 泰紀著「なぜ宇宙は存在するのか~はじめての現代宇宙論」ブルーバックス)。
     宇宙の神秘は、人間の想像力と最新科学の進歩により、未だ解明できない領域に対してどこまで迫れるのか。138億年前に宇宙は誕生したといわれていますが「時間が流れているとした場合、それ以前の宇宙はどのようなものだったのでしょうか。私たちが存在している空間を宇宙の次元まで広げると、空間とはどういう概念なのか疑問はどこまでも広がります」(吉田伸夫著「時間はどこから来て、なぜ流れるのか-最新物理学が解く時空・宇宙・意識の『謎』ブルーバックス)。
     現在の学説で「宇宙で解明されている「星と銀河0.5%」、「ニュートリノ0.1~1.5%、普通の物質原子4.4%」、「暗黒物質23%」、「暗黒エネルギー73%」、「反物質0%」、「暗黒場(ヒックス)」、とほとんどがダークマターとダークエネルギーとして仮説上存在すると考えられています」(村山斉著『宇宙は何でできているのか』幻冬舎新書)。しかし、宇宙が無限だとすれば、これらの数値はどのようにして導かれるのでしょうか。
     一方で宇宙は閉じた空間であるとの学説もありますが、その外側の空間はどうなっているのか、宇宙空間の存在自体の不思議に対する興味が尽きることはありません。
     宇宙空間のほとんどを占めているダークマターやダークエネルギーは、実数(a・b)と虚数単位(ⅰ)からなる複素数空間(a+bi)だ、とも言えなくもありません。さらに数学では、自然数の和1+2+3+4+・・・、の無限級数はマイナス1/12に収束することが証明されています。この公式が宇宙空間でも通用するとすれば、無数にある星雲の物質・エネルギーを自然数単位と考え、無限に足していけば「マイナス(-)」のダーク空間に転換されるという数学的推論に対して、宇宙物理学者がどのように解釈するのでしょうか。
     国立天文台重力波推進プロジェクトは、岐阜県飛騨市の神岡鉱山跡に建設されたKAGRA(重力波観測装置)を使って、「重力波」を検出しようとしています。アインシュタインがその存在を予言した重力波の研究は、宇宙のはじまりと成り立ちなど未解明な問題を解明する大きな手がかりになるでしょう。
     科学理論の世界から現実社会に目を移すと、科学技術の発展は幾多の素晴らしい業績を私たち人間社会にもたらしています。
     なかでも、アインシュタインの相対性理論は、「物質の根源的なモノとは何か」を解明する手段を提供してくれました。有名な方程式E= mC2は、質量mとエネルギーE(Cは光の速さ)は時間の差がなく同時に等価で存在することを示しています。すなわち、時間という概念は存在していません。この方程式に基づいて、人類が技術開発により莫大なエネルギーを実用化したのが、あの忌まわしい原子爆弾と原子力発電です。
     質量mが先か、エネルギーEが先かは、数学的には変換が可能ですが、これを素粒子のケースに当てはめれば「ある領域に閉じ込められた波動エネルギーが、外部からみるとその領域の質量に比例することを意味する」(吉田伸夫著、「時間はどこから来て、なぜ流れるのか?」講談社ブルーバックス)と解釈されます。アインシュタインの一般相対性理論では、「質量をもつ物体はそれだけで時空にゆがみを生じさせ、その物体が運動(軸対称ではない)をすると、この時空のゆがみが重力波として光速で伝わっていく」と予言しました。重力波はすべてを貫通し、減衰しないと考えられています。東京大学宇宙線研究所の重力波研究グループは、重力波の直接検出により、将来の「重力波による天体観測」の創生に繋げることを目指しています。重力波の観測技術が実現すれば、宇宙の謎に迫れるものと期待できます。
     この謎に満ちた宇宙のちっぽけな銀河系と、その中のこれまた小さな存在の太陽系、さらに、その中のひとつの惑星として、私たち人間はじめ全ての生き物に生命をもたらしてくれる「地球」があります。
     地球上の営みのすべては、太陽からの光・熱エネルギーから生ずる物質循環によってもたらされています。太陽自体の大きさや約6000度といわれる表面温度、太陽と地球との距離、地軸の傾き、自転/公転の速度等々、奇跡的なバランスの上に地球上の生命現象は保たれています。地軸が23度26分の傾きで太陽の周りを公転していることで、地球は様々な気候帯や四季を形成し気候帯ごとに適応した多種多様な生き物を育んでいます。
     地軸の傾きが何故こうなったのか。46~45億年前、地球に火星ほどの大きな天体が衝突したためという「ジャイアント・インパクト説」という仮説があり、この時に飛び散った破片から月が生まれたとの説がありますが、本当のところは分かっていません。
     また、地球が水の惑星といわれるほど大量の海水が存在するのは、「氷惑星M」の衝突説がありますが、定説にまでは至っていません。
     今、私たちが地球上で“平穏に”生活できているのは、「奇跡」の積み重ねとしか言わざるを得ません。驚くことに、1982年にボイジャー2号の観測した外側から3番目の軌道にある天王星の自転軸は、約98度傾いており黄道面をゴロゴロ転がるように公転しています。天体衝突説の他に自転軸の傾きと惑星自体の内部構造との因果関係は分かっていません。
     太陽のように自らエネルギーを生む恒星は、その質量によって寿命が決まると言われています。太陽は誕生してから約100億年で寿命と考えられていますから、現在、年齢が約46億年だとすると、これから50億年強で太陽は消滅することになります。
     21世紀に生きる私たちの寿命から考えれば50億年とは途方もない時間であり、私たち現代人が明日を心配する必要は全くありません。ただ、宇宙、銀河系、太陽系、太陽と地球のこの奇跡的なバランスに改めて驚嘆せざるを得ません。
     知の巨人ダンテは「天使の階層」をベアトリーチェに導かれつつ登っていきます。
     「魅惑に満ちた幻想的な旅の果に、ダンテはいちばん外側の球面へたどりつく。ダンテはそこで、眼下に広がる宇宙を目の当たりにする。いくつもの空が足元をぐるぐると回り、視線の突き当たり、すべての中心にわたしたちの地球がある。そして、次に頭上へ眼差しを向けたとき、ダンテはそこに何を見たのか?彼はそこに、一点の光を見た。その光は、天使が織りなす巨大な球面に取り巻かれていた。つまり、そこにはもうひとつ巨大な球面が存在しており、その球面はわたしたちの宇宙の球面を「取り巻き」、同時にそれに「取り巻かれて」いたのである。天獄編の第27歌から、ダンテの言葉を引いてみよう。『光と愛が一つの輪でこの天空を包含しているのです。この天空が他の天空にしているのと同様に』。つづく第30歌には、先述の『光の点』について以下のような記述があります。『包摂しているものに包摂されているかのような姿・・・』。光の点と天使が織りなす球面は、宇宙を取り巻き、同時に宇宙に取り巻かれている!これはまさしく三次元球面をめぐる描写である」(すごい物理学講義、カルロ・ロウェッリ=竹内薫監訳・栗原俊秀訳、河出書房新社)
     今もなお、科学の研究テーマは無数にあります。「水の惑星」「青い星」と言われている地球がなぜそのように呼ばれるようになったのか?前述の「幻の氷惑星М」仮説を取り上げた書籍があります。地球表面の約70%を占める海水の起源を解明しようとする意欲作ですが、なぜ氷惑星をМと名付けたのか?Мとはミラクルつまり「奇跡」、「神業」の暗喩だったのか?
     「無限の未知」が存在する科学の領域に挑戦する若き研究者が増えることは、現在日本が抱えている多くの問題の一つ基礎研究分野の退潮に歯止めをかけ、世界における優位性を高めるとともに“人類の節度ある発展”という倫理観醸成に貢献することにつながると思います。



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