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    アーカイブ フェロー・早田 秀人 エッセイ「思索の散歩道」 2025/02/10
    エッセイ「思索の散歩道」
    地球は生きている
     地球の内部は、熱いドロドロのマントル対流によって常に流動状態にあります。
     マントル対流の上にある大陸プレートは、地球の自転によって“押し合い”、“盛り上がり”、“沈み込む”など常に変動しています。
     さらに、大陸の地表面は緯度の違いによる自転の速度と遠心力の差を維持したままゆっくりと動いており、この動きこそがプレート境界で大小さまざまな規模の地震を引き起こす要因になっています。
     ところで、ヒマラヤ山脈は今でもインド亜大陸がのるプレートによって圧され続けているため、毎年数ミリメートルずつ高くなっていると言われています。仮に毎年1ミリメートル高くなっているとすれば1万年後には10メートルの高さになります。
     1912年ドイツの気象学者アルフレッド・ウェゲナーが発表した「プレートテクトニクス理論に基づく大陸移動説」は、「地球の内部構造」や「生きている地球の動き」を考えれば十分理解できます。しかし、世界の各地で頻発する地震に関しては大陸プレートが不規則に動くため“一定の法則”をあてはめることが出来ず、何時・何処で発生するかについて予測することは不可能です。
     国立天文台によれば、地球の自転軸は1891年にアメリカの天文学者セス・チャンドラーが発見した「チャンドラー・ウォブル」と呼ばれる3mないし6mという微小な揺らぎがあり、自転軸は不規則に変動しているとされていました。自転速度は、「潮汐摩擦(潮の満ち引きによって起こる海水と海底との摩擦)」によって長い時間をかけ徐々に遅くなりますが、数年から20年程度の“短い時間”で考えると、地球内部にある「核」の動き変化や「水(海水、陸水、氷河)」の分布が変化することなどいくつもの要因により、自転速度は必ずしも一定の割合で遅くなるわけではありません。また、2024年1月北海道大学大学院理学研究所の古屋正人教授と同大学院博士課程在籍の山口竜史さんは19世紀末から観測され続けてきた「チャンドラー・ウォブル」が2015年以降観測史上初めて消失していたことを発表しています。地球は当に「人間の飽くなき研究」を嘲笑うかのように変化し、活動し続けています。
     数万年単位の周期をもつ地球の気候変動と産業革命以降200~300年間の人間活動による気候変動を同列に論じることはできませんが、地球科学は、地下や海底に関して、地球の自転と公転により内部のマントルが対流し、「大陸や海洋プレートがゆっくり動き」、「海水が赤道帯域で温められ極地で冷やされる」ことにより海洋コンベアベルトが約1000~2000年周期で循環することが説明できるようになりました。地球は当に生きています!
     2020年1月。国立極地研究所が推進していた地質時代の区分「チバニアン」が、国際地質科学連合から認定され、約77万年前~約13万年前の地球史に刻まれました。特筆されるのは、世界の研究者が注目する「地磁気の逆転」です。
     地磁気は地表面下2900㎞以上の深さにある地球の核で液体の鉄とニッケルが対流することにより発生すると考えられています。地磁気の向きは、小さな方位磁針が”そのまま凍りつく”ように堆積岩や火山岩ができる際、それらに含まれる鉄分の多い鉱物によって記録されます。
     1926年.京都帝国大学の松山基範教授は、兵庫県の玄武洞にある岩石が逆向きに磁化されていることを発見しました。地球史上直近で起こった約77万年前の地磁気の逆転では、地磁気の不安定な期間がおよそ2万年にわたり続いていました。地質年代名「チバニアン」の由来です。千葉県市原市の地層の分析で判明した地磁気は、数10万年ごとに何度も逆転していることが国内外の調査で報告されていますが、なぜ逆転が起こるのかについては未だ解明されていません。
     地球の重心は、陸地が北半球に偏在しているためおそらく北半球にあります。その結果、自転軸を中心とした完全な円運動にはならずごく微小な揺らぎを伴っているのだと思います。この揺らぎが一方向に重なることによって、万年単位に核の溶融鉄・ニッケル等の流れが上下に捏ねられ逆転する可能性も考えられます。この捏ねは少しずつ進むため、逆転が瞬時に起こることはありません。因みにチバニアンの場合は2万年かかっています。
     2019年9月20日パリ地球物理学研究所のイブ・ガレ氏のグループが学術誌『Earth and Planetary Science Letters』に発表した論文によると「5億年ほど前のカンブリア紀中期(ドラム期)に100万年の周期で地磁気が26回逆転していた」としています。
     地磁気が逆転すると、「宇宙線の大気圏への入射量が増え、大気が電離化することによって過冷却の水蒸気が氷結しその結果、雲の発生量が増え、太陽光の入射量が減少し気候が寒冷化する」という説もあります。
     ところで、大陸間を移動する渡り鳥は体内に羅針盤のような地磁気に反応する生体機能を持ち合わせているといわれています。「地磁気の逆転」が急激に生ずれば、これら生物の生存条件に甚大な影響を及ぼすことが予想されます。とはいえ地磁気の逆転には万年単位の時間がかかります。地球上の「生きとし生けるもの」はこのような環境変化に驚くほど柔軟に対応し生存し続けることでしょう。
     サウジアラビアの内陸部にある首都リアドの近郊に高さ100mほどの断層崖があります。断層の境界から斜面を数10m下ると神秘的な地底湖を目にします。地底湖には小さな魚が棲息しています。現場に池を作って小さな魚を放し飼いにするとエサを与えても与えられたエサには目もくれず仲間同士で共食いをはじめます。この地底湖はペルシャ湾からも紅海からも数百㎞も離れている内陸にあるにもかかわらず、この小魚の祖先は「何時」「どこから」やってきて、「どのようにして」棲息するようになったのか。
     地底湖は、幾層にも重なった石灰岩が堆積した地層からなり、厚い層の中に透水層が分布していると考えれば、魚たちは透水層を長い時間をかけて地底湖にたどり着き棲みついたと考えられます。地磁気の逆転のような全球スケールの変動が魚の方角探知能を狂わし、地表面化にある透水層伝いに移動し安住の地である地底湖にたどり着いたのでしょうか。与えられた環境に抗うこともせず“なるようになれ”と変化を受け入れ、逞しく「生」を繋いでいる小魚が棲息していることに驚きを禁じえません。
     因みに、この透水層の存在は、地底湖の近くに出来た石油製油所が工業用水を深さ2千メートルの地層から汲み上げられていることからも明らかです。
     「共食い」は、小さな地底湖で微生物、プランクトン、および水中小生物からなる食物連鎖の単純な生態系が成り立っており、現世代が生存を維持するためには、種が増え過ぎないようにするという“摂理”が働いている結果と考えられます。
     地底湖の魚の生存自体は、地殻変動による地質構造にその謎が秘められていますが 〝小さな世界〟から見える魚たちの共食いは、生存数が増え続ければ、地底湖に生きる小魚と同様の“生存原理”が働くことになるという警鐘を投げかけているのではないかと思えてなりません。人類は農耕社会が始まって以降、土地に“従属”するようになりました。農耕社会が成熟し富の増大に伴って大都市が誕生・発達し科学技術もそのスピードに比例して急速な発展を遂げ、“人智を遥かに超えて”自己増殖し続けています。核兵器の開発・保有数争い、デジタル社会とAI技術など自己増殖の事例は枚挙に暇がありません。
     人類はこうした現代社会の無節操・無制御状態の中にあって「人間も“地球規模”では地底湖の小さな魚と同じ存在だ」ということに目を開き“自問自答”しなければなりません。現代人の限りない貪欲を抑え込み秩序と倫理性をもって節度ある生活に立ち返ることができれば、地球は確固とした生存原理に支えられ“生き続ける”ことができると思います。



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