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アーカイブ フェロー・早田 秀人 エッセイ「思索の散歩道」 2025/04/24
私たち人類はもとより全ての生命を生み、育んでいる地球は、無限の広がりを有するとされる宇宙と比較すると“芥子粒”にも満たないほど微小な惑星と言ってよいでしょう。
地球の半径は約6370キロメートルですが、この数字を1億分の1に縮小すると僅か6,37センチメートルになってしまいます。南米ボリビアの最大都市であるラパス(La Paz)は海抜が約3,600メートルで、 “世界一標高の高い首都として有名ですが、“生き物”にとって棲息できる範囲を高いところで海抜5000メートル、深海は10000メートルとすれば、棲息域は、合計15000メートルになります。この数値を1億分の1に縮小するとわずか0.15㎜で、あらゆる生命がこの極めて狭い棲息域の中で”いのち“を繋いでいることになるわけです。翻って、私たち人類の活動域を1000mと想定し1億分の1に縮小してみると僅か0.01mmの薄い領域の中で生活が営まれていることになり、地球は途方もなく大きな存在となります。
ところで、私たち人間が生活していく上で欠かせない鉄鉱石や石油・天然ガスなど重要資源の年間消費量を世界全体で見ると粗鋼生産量は約18.8億トン(2024年・世界鉄鋼協会)、原油生産量約29億トン(2023年Energy Institute)、天然ガスの生産量は4兆2,829億立方メートル(2023年JETROビジネス短信)と膨大な量となっています。
これに対して、地球の重量は5,972,000,000,000,000,000,000トンで5.972×1021トンと表すことができます。また、5,972,000,000兆トン あるいは597,200京トンとも表現できるでしょう。この重量は月の80倍もありますが、太陽の重量と比べれば、僅か30万分の1でしかありません。また、地球大気圏は約5,000兆トンの空気と約100兆トン弱の水蒸気から成っています。因みに2021年における世界のエネルギー起源の炭酸ガス放出量は336億トンでした(世界エネルギー機関IEA)。
地球の半径に沿って縦に深く掘っていくと、地殻・マントル・核の3つの層があって、それぞれに成分や性質が異なっていることが明らかになっています。表層(ひょうそう)から始まって、地殻(ちかく)、マントル、核(かく)の3層です。
地殻は地表から50km下までの範囲で、すべて岩石から成り立っています。地殻は地球の中で最も軽い部分で、平均すると1立方センチメートルあたり2.7gの重さです。マントルは地下50kmから3,500kmまでにあり、地殻より重い岩石でできています。
現代文明が採掘し移動させている自然資源は膨大な量になりますが、地球の重さはこれに対して無限とも言えます。
鉄鉱石や石油・天然ガスなどを大量に採掘し大型タンカーで運搬移動させて鉄鋼製品やエネルギーを手に入れる行為は、膨大な重量ですが、地球の重心変化にほとんど影響を与えない、すなわち地球の“自転軸の揺れ”や”公転周期“への影響がないと言いきれるでしょう。
話は変わりますが、学生時代に秩父連峰を縦走した時の思い出です。登山道で難儀することはなかったものの降り頻る雨に閉口、不運を恨めしく思っていたその時、足元で轟く雷に驚き狼狽えたことは懐かしい想い出となっていますが、と同時に、標高2599メートルを誇る連峰の最高峰・金峰山の頂上で雨上がりの澄み切った夜空を切り裂いて降り注ぐ無数の流れ星の美しい光景に息を呑み込み、目視することも難しい「天体」が宇宙の彼方から地球に“降り注ぐ”のを間近にした時は不思議な感覚を覚えました。
恐竜時代に幕を引いたとされている巨大な隕石はさておき、フランスCNRS(国立科学研究センター)で微小隕石の研究をしているジャン・ドゥプラさんの研究チームによると夜空を彩る小さな隕石が地球に落下する数量は「1年間におよそ5000万トンにおよぶ」との研究結果を明らかにしていますが、“巨大な地球”の天体運動への影響は無視できるものと断言できます。
地球は宇宙スケールで見れば、砂粒にも満たない小さな星ですが、視点を変えれば途方もない大きさであることは間違えありません。そして、地球の表面に“張り付いて生活している”人類が醜い争いに明け暮れてきた歴史の馬鹿馬鹿しさを慨嘆せざるを得ません。
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