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    アーカイブ 研究所長・井坂 公明 メディア 2024/01/23
    日経電子版の有料会員90万人突破、朝刊部数は大幅減の140万部
    =数年以内に紙から電子版へ主役交代も=
     日本経済新聞社は1月16日、2023年12月の日経新聞朝刊販売部数(日本ABC協会調べ)と24年1月1日時点の日経電子版有料会員数を公表した。それによると、日経電子版の有料会員は90万2222人で前年同月に比べ7万8354人増え、初めて90万人を突破した。一方、朝刊販売部数は23年7月の購読料値上げの影響もあって140万9147部と同24万780部の大幅減となった。朝刊と電子版の購読数の合計は231万1369で、1年前より16万2426のマイナスだった。朝刊の部数がこのままのペースで減っていけば、2、3年ほどで電子版の有料会員数が朝刊部数を上回り、情報発信の主役媒体が紙からデジタルに交代する可能性が高い。
     また、日経電子版の有料会員数に、日経産業新聞、日経MJ、日経ヴェリタスの紙面ビューアーの契約数、日経人事ウオッチとNIKKEI Financial、NIKKEI Primeの契約数を加えた「デジタル購読数」は101万8499で、この1年間で9万7914増加し、初めて100万の大台に乗った。
    ◆日本初の有料会員100万人のネットニュースメディア誕生も射程内に
     日経新聞は10年3月に全国紙のトップを切って日経電子版を創刊。同年10月にはiPhone(アイフォーン)に対応したことも追い風となって、有料会員は12月に早くも10万人を突破。12年4月に20万人、15年4月には40万人に届いた。17年1月には50万人の大台に乗り、創刊10年を前に20年2月には70万人を超えるなど、朝日新聞デジタルをはじめ伸び悩む他の全国紙のデジタル版を横目に順調な伸びを示してきた。
     ところが、20年7月に76万7978人に達した後、翌21年1月には7000人超のマイナスに。同年7月には81万1682人と80万人台に乗せたものの、22年1月には再び79万7362人まで後退。その後も83万201人(22年7月)、82万3868人(23年1月)と増減を繰り返し「80万人の壁」をスッキリとは抜け出せずにいた。それが23年7月には87万3929人、今回は90万人超と再び上昇基調に戻ってきたように見える。
     日経新聞によると、日経電子版はこれまで個人向けで成長してきたが、ここ数年、法人や教育分野での導入が増え、購読数を押し上げている。17年3月に日経人事ウオッチなどを標準装備した「日経電子版Pro」、22年1月にはNIKKEI Financialなど日経グループのデジタル媒体をより広範囲に併読できる「日経電子版 FOR OFFICE」の提供を開始。後者の導入企業は2万4500社(23年11月現在)に上る。23年4月には電子版を中学校や高校など向けに補助教材として提供する「日経電子版 for Education」をスタートさせ、導入校は全国に広がっているという。
     日経電子版が日本では初めてとなる有料会員100万人のネットニュースメディアとなる日も、それほど遠くはなさそうだ。そうなれば、メディアというだけでなく、読者のコミュニティとしても重みを持ってくるだろう。
    ◆日経朝刊はピーク時の半分以下に、最近1年間の減少率は全国紙で最大
     一方、日経朝刊販売部数は02年7月の310万部をピークに減少傾向に歯止めがかかっていない。電子版が創刊された2010年の1月には304万部あったが、17年1月には271万部まで減少。同年11月の購読料値上げの影響で18年1月には244万部へと急減し、20年12月には199万部と37年ぶりに200万部を割り込んだ。その後も22年1月179万部、23年1月162万部と減少が続き、23年12月(今回公表分)には141万部弱とピーク時の半分以下まで落ち込んだ。
     全国紙や有力紙の販売局・販売店関係者の話を総合すると、実際の購読者を上回る部数の仕入れを新聞社が販売店に強要する「押し紙」が、日経新聞の場合2~3割程度あるため、日経朝刊の実売部数は多くても110万部程度とみられる。
     今回公表分の朝刊販売部数は前年同月に比べ14.6%減。減少率は毎日新聞(13.0%)、産経新聞(10.3%)、朝日新聞(8.6%)、読売新聞(7.0%)を上回り、全国紙で最大となった。日経新聞社が23年7月の購読料値上げの際、電子版の料金は据え置くなど、電子版へのシフトに力を注いでいることも、紙の新聞が大きく減少している一因とみられる。
     日経朝刊と電子版の合計購読数は、17年1月の321万をピークに減少に転じていて、21年1月には270万、22年1月には259万、今回は231万(朝刊部数は23年12月の数字)まで下降した。18年以降は朝刊の部数減を電子版の伸びで補い切れていない。(グラフ参照)
    ◆中堅・若手の離職増加や調査報道の質向上などの課題も
     有価証券報告書によると、日経新聞(単体)の22年の売上高は1751億円で、12年(1718億円)以降100億円程度の変動はあるものの、ほぼ横ばいで推移している。新聞に逆風が強まる中、朝日新聞(単体)の22年度の売上高が1819億円と10年前の6割弱にまで落ち込むなど他の全国紙が軒並み売り上げを減らしているのに比べ、日経新聞の堅調ぶりが目立つ。紙からデジタルへの切り替えがある程度スムーズに進んでいるとみることもできるかもしれない。ただ、朝刊と電子版の合計購読数がピークだった17年(1872億円)前後に比べると、22年は120億円ほど売り上げが落ちている。今後紙の新聞の減り方が想定以上となれば、売上高がさらに落ち込んでくる可能性も否定はできない。
     デジタル版のニュース有料読者を654万人(ほかに紙の新聞読者が71万人、23年3月現在)まで伸ばした米ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、有料読者や売上高の増加に伴い、「ジャーナリズム活動に従事する人員」を21年末の2000人超から、22年末には2600人にまで増やした。
     これに対し、日経新聞は20年の有価証券報告書で「今後10年間で大量採用世代が定年を迎え、現在約2900人の社員数は、毎年90人程度の新規採用を続けても2000人近くまで減ります」と社員数が10年で約3割減少する見通しを明らかにし、対策として「成長を維持するため、社員一人当たりの生産性を高めていきます」と生産性の向上を挙げた。同社の社内文書「編集局改革-21世紀のクオリティーメディアを創る」(20年6月26日)にも、「19年末で1313人の正社員が30年には939人(28%減)となる」と編集局の人員計画に言及したくだりがある。一方で「30年には60歳超の社員が150人増えるため、各部でその活用が課題になる」とも指摘。電子版の有料会員は増加しているものの、全体の売り上げは横ばいという状況を考慮してか、記者や編集者の人員増には前向きでないニュアンスが読み取れる。
     そうした状況の中で、従来の新聞に加え電子版のコンテンツ充実を図ったことで記者1人当たりの業務量が増大。21年以降、出先のキャップクラスを含む若手・中堅記者の人材流出が続いている。日経新聞の内部情報に詳しいFACTAオンラインによると、21年に約40人、22年に10人以上、23年には少なくとも9人が依願退職した。会社側も22年の有価証券報告書で「最近は雇用の流動化もあって、若手・中堅社員の離職が増えています」とこうした事態を認めている。日経新聞関係者は「仕事量の増加と経営陣への不信感が相まって、離職につながっている。会社側はシニアの再雇用と中途採用の拡大で乗り切ろうとしているが、シニアも再雇用期間の途中で辞めてしまう人が少なくなく、中途入社も最近は(募集しても)あまり来なくなった」と明かす。新聞業界全体の課題が日経新聞をも覆う中で、今後は良質なコンテンツを作ることができる人材の確保が課題となりそうだ。
     日経新聞は18年3月に編集局長直属の調査報道専従チームをデビューさせて以来、調査報道に力を入れてきた。「ここでしか読めないコンテンツ、独自ネタを含む調査報道がないと、電子版でお金は取れない」(同社幹部)との判断からだ。最近も中国が日米欧の先端技術を軍事転用している疑いがあると警鐘を鳴らした「中国に狙われた工作機械」(23年11月7日)では、動画やビジュアルデータ、地図などを組み合わせて報道。対ロシア制裁の抜け道を明らかにした「ロシアが米半導体輸入1000億円 制裁に穴、中国経由7割」(23年4月12日)などデータジャーナリズムにも力を入れている。ただ、社内外からは、利権絡みや隠蔽された事実の暴露には腰が引けているとの指摘もある。日経新聞がお手本とする、傘下のフィナンシャル・タイムズのレベルに達するには「権力に不都合な真実」も追及していく必要があるだろう。
     現行水準の売上高を維持しつつ、調査報道を含むコンテンツの質を向上させながら、紙から電子版への主役交代をスムーズに実現できるのか。部数減にあえぐ新聞業界の熱い視線が日経新聞に集まっている。(了)



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