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アーカイブ 主席研究員・櫻井 元 エッセイ 2024/06/01
フジテレビの「古畑任三郎」シリーズが、放送30周年を迎えたのを機に、連日、2話ずつ再放送されている。30年前は、忙しくて観ることができなかったので、今では「へぇ、岩手めんこいテレビの社長をしている斎藤秋水さんは、このディレクターだったのか」「三谷幸喜さんの脚本は、30年経っても面白いな」などと再認識しながら、ゆっくり再放送を楽しませていただいている。
「古畑さん」に便乗するわけではないが、24年前の思い出を紹介したい。
2000年3月のある日、「ドイツの政治と外交」と題したある政党の勉強会に呼ばれた。ベルリンから帰国して3ヵ月。旧知の衆院議員から「日独政治の比較のような話を」とリクエストがあり、若手の政治家10数人を前に、当時のシュレーダー首相(社会民主党)のメディアとの付き合い方、ドイツの与野党の党大会運営の方法などの話をした。その時の資料は残っていないが、コール前首相(キリスト教民主同盟)の政治資金をめぐる疑惑についても話したのだと思う。
自民党を離党して、ここに合流していた議員から「コール首相の事件って、具体的にはどんな手口なんですか」と質問された。「いくつかのルートがあるが、私が聞いた中では、タックスヘイブンであるリヒテンシュタインのコンサルタント企業を使って、たとえば政策的な提言を3000万円で発注したのに、1億円を支払って、7000万円を還流させる。そんな方法もあったようです」
そう答えると、同議員は「キックバックか。それはいい手口だなあ」と笑顔だった。主催した議員は、苦虫をかみつぶした表情だったが、本人はまったく気づかず、私も苦笑するしかなかった。笑顔の議員は、自民に復党することなく、政界から離れたが、いまも健在なようだ。
政治資金規正法の改正議論に発展した政治資金パーティーの「キックバック」問題が浮上してから、胸の底にザラっと残るこの場面がよみがえるようになった。
「キックバックはいい手口」……教えたのは僕じゃないよね。
ご参考までに、帰国する前、私が書いたインタビューの記事(朝日新聞朝刊1999年12月26日付)を、新聞社の許可(承諾番号24-0738)を得て転載します。
政治資金研究者・アルニム教授に聞く ドイツのコール氏疑惑
ドイツのコール前首相が深く関与するキリスト教民主同盟(CDU)のヤミ献金疑惑は、ドイツの政治献金も不透明であることを裏付けた。「政党・議員・カネ」などの著書で知られるドイツの政治資金研究の第一人者、シュパイヤー行政大学のハンスヘルベルト・フォン・アルニム教授に、コール疑惑のもつ意味、政治資金制度の目指すべき改革の方向などを聞いた。(シュパイヤー〈ドイツ・ラインラントファルツ州〉桜井元)
今回の疑惑は、CDU一党の問題ではない。コール氏は過去数十年、カネに関してあらゆる手を打ち、ドイツの政治風土を傷つけてきた。
コール氏は、ラインラントファルツ州の州議会議員団長だった1960年代、地元の化学企業団体から報酬を受け取るという問題を起こした。(鉄鋼企業からの政治献金が事件になった1986年の)フリック事件のボン地裁判決は、コール氏が51万5千マルク(現為替レートで約2800万円)を受け取ったことを認定している。首相の連邦議会調査委員会での偽証もあった。
しかし、政治献金に深く司法のメスが入ったことはない。フリック事件もラムスドルフ経済相(当時)らの脱税事件にとどまった。
今回の装甲車の輸出、仏石油大手エルフ・アキテーヌ社の旧東独企業買収にからむ疑惑は追及しなければならない。議会の調査委がどれほどの事実を掘り起こせるかは疑問だ。
私はラウ大統領に書簡を出し、政治資金の制度を迅速に改革するため(大統領の諮問機関である)「政党審議会」を開くよう提案した。
シュミット元首相らが提言した企業・団体献金の禁止は、よい方向だ。現行制度では、2万マルク(約108万円)を超える企業・団体献金は政治資金報告書に献金した法人の名前が明記される。多くの大企業は、子会社に小口の献金を分散する形で献金し、名前を隠している。これは法の抜け穴だ。
ヤミ献金は、政治の透明性の対極にある。献金や政党助成だけでなく、議会の会派、政党系財団、議員秘書や議会スタッフらの報酬まで総点検し、政治資金の膨張傾向を正さなければならない。収入と同時に、政党の支出も厳しく監視しなければならない。
(漢数字を洋数字に置き換えた以外は、改変していません)
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