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アーカイブ 特別参与・内海 善雄 LesEssais 2026/03/02
ルーズベルトは、宣戦布告をせずに真珠湾を奇襲した卑怯な日本というイメージを国民に植え付けることにより戦意を発揚させ、対日戦争とヨーロッパ戦線に参戦したと言われている。
米国は、日本は外交交渉を行っている最中に騙し討ちしたと主張する。しかし、全面的に日本の要求を拒否したハルノートで、日本の南進と石油禁輸の解決のための交渉は事実上決裂したのである。 在米日本大使館は訓令に基づいて宣戦布告書を攻撃30分前に手交するはずだったが間に合わず、1時間後に渡され、日本は、国際法である「宣戦布告の義務」の履行が出来なかった。それだけではないだろうが、この国際法違反が大きな要素となって「リメンバー パールハーバー」を合言葉に、広島・長崎に至ったのである。
彼らのこの「正義感」は、今回の自国のイラン攻撃では皆無だったと言わざるを得ない。
イランと米国は、核開発や制裁をめぐって交渉中であった。仲介国オマーンは、「交渉は大きく進展し、次はウイーンで実務者レベルで詰める」と発表した。その矢先、突然のイラン攻撃で最高指導者ハメネイ氏が殺害されたのである。
イランは、ヒスボラの支援などを理由に米政府によりテロ支援国家に指定されているが、国連が指定した訳ではない。しかし、イランの核開発については、国連安保理の数次にわたる決議により制裁が発動されているので、米国がイランに核開発停止を交渉していることについては、国際社会の賛同が得られていると言える。
しかし、突然のイラン攻撃やハメネイ氏の殺害についてはどうだろうか。
第二次大戦後、人類は真摯な反省のもと、国連体制を構築した。国連憲章では、武力による国際紛争の解決を全面的に禁止し、国連決議がある場合に限り限定的に許すことにした(国連憲章2条4項)。
イランに対する国連の制裁決議は、経済制裁や査察などでありであり、軍事的なものは一切ない。したがって、今回の米・イスラエルの軍事行動は、国連決議とは関係のない米国とイスラエルの単独の戦闘行為である。しかし、米もイスラエルも、イランに宣戦布告をした形跡はない。
米国とイスラエルは、まだイランと外交交渉を行っている最中に、武力行使を禁ずる国連憲章に違反して突然戦闘行為を開始したのだから、明らか国際法違反と非難されるべき行為である。ところが軍事施設の攻撃などいわゆる通常の戦争行為を超え、主権国家の元首をはじめ多数の要人をピンポイントで殺害したのであるから、これこそ国家によるテロ行為である。
有名なローマ法や秦の法家思想に限らず、人類は暴力に頼らない法治主義を営々と築いてきた。民主主義であろうが、専制主義であろうが、資本主義であろうが社会主義であろうが法治主義は、人類を人類たらしめる英知なのだ。しかし、国際社会ではその発達が遅れた。二度の世界大戦による数百万人の尊い命の犠牲のもとに、やっと国連体制という法治主義を作り上げることに成功した。その成功には、国際連盟を提案したウイルソンをはじめ、米国人の努力と功績は大きい。
真珠湾攻撃が行われた80余年前は、武力行使を禁ずる国連憲章も存在せず、国家間の紛争の解決はもっぱら戦争が常套手段だった。外交交渉が事実上決裂し、軍事施設を攻撃した日本に、当時の国際法である宣戦布告義務の履行が遅れただけで、卑怯者の汚名をかぶせる米国人の「正義感」があった。
その米国が、自らが主導して築き上げた人類の英知である国連体制を破壊しただけでなく、国家によるテロ行為を堂々と行ったのである。
しかし、各国の反応は必ずしも米国批判一辺倒ではない。ユダヤ人社会の存在やトランプ大統領に対する配慮があるのだろう。
トランプは果たして都合の良い親米政権をイランに樹立することができるだろうか。 虐げられた民衆が、ハーレビ国王と米国を追い出したイスラム革命で成立したのが現イラン体制である。歓喜で連合軍を迎えたパリ市民とはまったく事情が異なる。また、「リメンバー パールハーバー」と言われ、徹底的に打ちのめされた日本が、「リメンバー 広島・長崎」を忘れ、瞬く間に世界で一番の親米国家になった日本人の特殊な精神構造も存在しない。米国は、ベトナムやイラク、アフガニスタンでの過ちを、イランでも繰り返すことになるのではないか。
長引く紛争やイラン国内の混乱が世界平和や経済に及ぼす影響は計り知れない。いくら特殊な精神構造を持った日本人といえども、へらへらと笑っているだけでは済まされないだろう。いったい日本は、何ができ、何をなすべきなのか?
敗戦国日本を復興させたのは、米国から畳み込まれた戦争の反省と平和国家を標榜して、経済活動に専念したからだと思う。もちろん日米安保体制があったからだという事実もあったかも知れないが、むしろ憲法第9条の旗の下、日本外交の賜物であったと思う。近年中国の脅威を喧伝して米国一辺倒の安保政策に頼る意見が強いが、今一度、周辺を冷静に見極める必要がある。中国だけでなく、突然のイラン攻撃は、米国もかつての米国ではないことを知る良い機会だったと思う。
また、米国が変わったと嘆くだけではなく、世界一の親米国家である日本は、米国が戦後の国際社会を構築した理念を、その恩恵を最も受けた国として、米国にもう一度呼び覚ますことも、重要な責務の一つではないだろうか。更に、自らが国際社会の法治主義の成熟のため、国際機関の各種の活動に積極的に貢献することも重要である。
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