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アーカイブ 月刊ニューメディア 2022年1月号 水野 泰志
岸田文雄政権は、総選挙を乗り切り、強固な政治基盤を確立したが、気になるのは「総務省接待事件」で壊滅的な打撃を受けた情報通信行政の行方だ。深化するネット社会にあって国際競争を勝ち抜くうえで欠かせない政策分野だが、総務省に絶大な影響力を持ち携帯電話料金の低廉化などに邁進した菅義偉・前総理大臣と違って、岸田総理大臣からは熱い思いが今一つ伝わってこない。
岸田内閣の布陣を見ても、要の総務省を背負う金子恭之総務大臣は「ズブの素人」と言われ、発足したばかりのデジタル庁を任された牧島かれんデジタル大臣も平井卓也・前大臣のように精通しているとは言い難い。
大臣が政策に疎くても有能な官僚群が支えれば行政は揺るがないとされるが、当面の情報通信行政に限れば、トップのリーダーシップに不安があるうえ、「接待事件」で総務省の幹部官僚が軒並み霞が関を去る異常事態となっているだけに、心もとなさを感じるのは筆者だけではないだろう。
菅政権が退陣する直前の10月1日、「接待事件」が行政に与えた影響を検証していた第三者委員会「情報通信行政検証委員会」(座長・吉野弦太弁護士)は、最終報告書を提出、総務省を揺るがした「接待事件」に一応の区切りをつけ、岸田政権に「新生・総務省」を託した。
60ページ余(参考資料を含めれば170ページ超)に及ぶ最終報告書は、不祥事を起こした総務官僚について「公務のあるべき姿を見失っていた」と厳しく指弾し、国民の信頼を損なったことを重ねて強調、総務省が負った傷の深さをあらためて浮き彫りにした。
報告書が示すように「信頼回復の道のりは決して平坦なものではない」ことは言を俟たないが、注目したいのは、報告書に添えられていた資料で明らかになった職員の「士気の低下」だ。
検証委員会に求められて実施した情報通信行政に携わる総務省職員向けのアンケート(回答数:管理職から係員級まで280人)で、「総務省で働いていることに誇りを持っているか」との問いに、「そう思わない」4.6%、「あまりそう思わない」8.9%、「どちらとも言えない」16.81%と、約3割の職員が「仕事に誇りをもてない」と答えたのだ。総務省関係者は「衝撃的な数字」と驚きを隠さない。
検証委員会は、逆に「仕事に誇りを持っている」と答えた職員が約7割もいることを評価したが、今後の情報通信行政の担い手の意識としては、いささか寂しい数字ではないだろうか。
官僚群が有能であるためにはハイレベルの知見が求められるが、もっと重視されなければならないのは国家・国民のために働こうという「意欲」であり、公務員としての「矜持」だろう。
総務省では9月初め、公募で選ばれた若手職員による改革提案チームが汚名返上に向けて「総務省2.0に向けたロードマップ」と題する提言をまとめた。ただ、武田良太・前総務大臣が仕掛けた政治的パフォーマンスともいわれるだけに、金子総務大臣がどこまで本腰を入れるかは不透明だ。政治家の思惑で振り回されるとしたら、将来を担う若手職員たちのせっかくの努力もムダになりかねない。
もっとも、情報通信行政の再構築は、徐々に進められていると言われる。寸断された情報通信政策、いびつになった官僚人事、途切れた通信・放送業界との人脈など、課題が山積する中、新たに要職に就いた幹部が先頭に立って奔走しているようで、水面下でも処分を受けた幹部の中で本省に残った数少ない一人の湯本博信・元官房審議官(情報流通行政局担当)・現サイバーセキュリティ・情報化審議官以下「裏の3人組」と呼ばれる面々が汗を流しているという話も聞こえてくる。
金子総務大臣が、自らの言葉で情報通信行政を論じることができるまでには時間がかかりそうなだけに、総務官僚群の一刻も早い士気の向上と態勢立て直しが求められる。
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