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アーカイブ 月刊ニューメディア 2022年3月号 水野 泰志
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
電波の割り当てを競売で決める「電波オークション」が、日本でもついに導入される方向となった。かたくなに拒否してきた総務省が内外の圧力に押されて「導入やむなし」に傾き、反対一色だった通信業界もNTTドコモを先頭に「賛成」に転換、希少な電波の分捕り合戦は大きな転換点を迎えつつある。
これまで通信や放送の電波の割り当ては、総務省の裁量で決まる「比較審査方式」で行われてきた。電波の割り当てを希望する事業者が提出した事業計画に基づき、総務省が既存事業者や新規参入組のバランスをにらみながら、折々の政策的判断を踏まえて事業者を選ぶ仕組みだ。「美人コンテスト」と揶揄され、総務省が通信・放送業界ににらみを効かすパワーの源泉となってきたが、一方で決定過程に透明さを欠くとの批判が絶えなかった。
これに対し、「オークション方式」は、競争入札でもっとも高い金額を提示した事業者に電波を割り当てる仕組みで、行政の裁量を許さず、透明性の高いことが特徴だ。当然のことながら、資金力の豊かな事業者が有利になるといわれている。海外では、既に欧米を中心に50か国超が採用しており、経済開発協力機構(OECD)加盟国で導入していないのは日本だけとなっている。
こうした中、総務省は重い腰を上げ、10月に有識者会議「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」を立ち上げ、第5世代通信規格(5G)の電波の割り当てに向け、中心的議題として「電波オークション」を取り上げることになった。
政府の「規制改革推進会議」に「オークション方式」の導入を迫られた経緯もあるが、諸外国の情勢を鑑みれば「比較審査方式」にこだわり続けるのは得策ではないとの判断に傾いたようで、有識者会議の設置そのものが「オークション方式」の導入に向けて舵を切ろうとしている証左ともいえる。
有識者会議が議論を始めてまもなく、「電波オークション」をめぐる事態は急転した。反対していた通信業界の中で、最大手のNTTドコモが、一転して賛成の立場を表明したのだ。落札価格の高騰の懸念についても獲得周波数に上限を設けるなど制度設計の工夫で対応できるとの見解を示した。電波の取得に多額のコストかかるため、通信会社はおしなべて慎重だったが、NTTドコモに続いてソフトバンクも一定の理解を示し、にわかに現実味を帯びてきた。
NTTドコモの豹変には、さまざまな見立てがある。一つは、「楽天モバイルつぶし」という視点だ。格安料金で寡占市場に新規参入した楽天モバイルの勢いを削ぐため、新たに割り当てられる5G用周波数帯を「オークション方式」の競りにかけ、資金難にあえぎ黒字化もままならないライバルを封じ込めようという思惑がかいま見える。
一方、総務省に対する「意趣返し」という指摘もある。2021年春に行われた東名阪エリア以外の5G用1.7GHz帯の周波数の割り当てで、総務省は、優位とみられていたNTTドコモを差し置いて楽天モバイルに免許を与えた。このため、恣意的な「比較審査方式」より、いっそ透明性の高い「オークション方式」で決着をつけた方がいいというわけだ
逆に、「電波オークション」の導入に傾きつつある総務省の「後押し」という見方がある。携帯電話の値下げで先鞭を切って政府に「貸し」をつくったのと同様に、「オークション方式」に賛意を示すことで総務省に「貸し」をつくり、進行中のNTT再々編を有利に進めようという思いがチラつく。
いずれにせよ、NTTドコモの方針転換が「オークション方式」の流れを加速させたことは間違いなさそうだ。総務省は2022年夏までに結論を得るとしており、有識者会議の論議の焦点は今後、導入を前提とした条件整備に移るとみられる。
もっとも、「電波オークション」が導入されれば、落札額の多寡にかかわらず通信料金にハネ返るとみられるだけに、利用者は議論の行方を注視していくことが求められよう。
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