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アーカイブ 月刊ニューメディア 2022年10月号 水野 泰志
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
「NHK肥大化」を批判する新聞界の主張が、いつまで経っても深化しない。総務省が7月末に「放送」の将来像についてまとめた報告書に対しても、従来の見解を繰り返すばかり。民放界に大きな影響力をもつ新聞界は、自ら「放送」の未来図を描いて、「ネット時代のNHKのあるべき姿」を世に問うことができないものだろうか。このままでは、新聞界は、ネット社会でますます居場所がなくなりかねない。
総務省有識者会議の認識 「二元体制を情報空間全体で維持」
メディアとしての「放送」の将来を考える場合、「ネット」との関わり方が最大のテーマになる。総務省の有識者会議(座長=三友仁志・早大大学院教授)が提出した報告書「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方」は、そんな視点に立ってとりまとめられた。
報告書は、まず「情報空間は、インターネットを含め放送以外にも広がっている。放送は構造的な変化が迫られ、既存の枠組にとらわれない変革が求められる」と「放送」を取り巻く環境が激変していると分析し、「NHKと民放の二元体制を情報空間全体で維持していくことが重要」という認識を示した。
そして、放送界を牽引するNHKのネット事業について「具体的かつ包括的に検討を進めた上で、制度的措置についても併せて検討していくべき である」と結んだ。
これは、「放送の補完的業務」と位置づけられてきたNHKのネット事業を、「放送と同格の本来業務」に引き上げることを念頭に置いたものと捉えられる。つまり、NHKを、「放送」も「ネット」も展開するメディアとして、名実ともに認知しようというのである。
20年以上も前に発表した「民業圧迫」論から進んできたか
これに対し、新聞協会のメディア開発委員会が出した意見書は、「NHKのインターネット業務が際限なく拡大されることを強く危惧する」と、これまでのようにNHKの肥大化の懸念を指摘するにとどまり、総務省に「真摯な対応を求める」と下駄を預けた。
20年以上も前の2002年3月、新聞協会は、総務省が示した「NHKのインターネット利用ガイドライン」に対し、「受信料という公的な安定財源を確保されているNHKが、民間企業がしのぎを削っている分野へ参入すれば、民業圧迫につながる」と反発、「民主主義の根幹である言論の多様性を損ないかねないとの重大な危惧を抱かざるを得ない」と、NHKのネット進出を問題視した。
新聞界の主張は、そこから一歩も進んでいない。「十年一日」ならぬ「二十年一日」のごとく、である。
その間、「新聞」は「ネット」の大波に巻き込まれ、メディアとしても、産業としても、著しく衰退してきた。
新聞通信調査会の最新調査によれば、肝心のニュースの接触率は61%にとどまり、NHK(77%)や ネット(73%)の後塵を拝するようになった。00年に約5400万部を数えた発行部数は、今や約3300万部にまで落ち込み、さらに加速度的に減少している。
にもかかわらず、新聞界は、いまだに「ネット」との適切な付き合い方を見い出せずにもがいている。過去の成功体験にとらわれ、ズルズルと後ずさりする様は、なんともふがいない。
そういえば、「新聞」の旧態依然とした姿は、安倍晋三元首相暗殺事件めぐる報道でも露見した。やり玉に上がった「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」を、「ネット」が早々に突き止めているにもかかわらず、新聞各社は、教団が自ら名乗り出るまで「特定の宗教団体」と呼び、その名を明示しなかった。デジタル時代に期待される情報のスピードと質に、「新聞」が追いつけなくなっている実態を象徴する一件だった。
放送界が本格的に「ネット」に乗り出そうとする歴史的な転換点を迎えている中、新聞界がメディア界のリーダーを自認するならば、NHKと共存する道を、行政まかせにせず、自ら具体的に提起することが求められる。
新聞界は、メディアとしての存在意義を示す踏ん張りどころだ。
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