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アーカイブ 月刊ニューメディア 2022年11月号 水野 泰志
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
長く民放の経営を規制してきた「マスメディア集中排除原則(マス排)」が大幅に緩和される見通しとなった。「テレビ離れ」が急速に進む中、苦境に立たされる地上放送のローカル局の救済に向けて、総務省が「切り札」を切った形だが、遅きに失した感は否めず、経営規模の小さいローカル局が立ち行くかどうかは予断を許さない。
総務省は、有識者会議が8月に公表した報告書「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方」を受けて、「マス排」見直しのための省令改定に着手、来春にも施行できるよう作業を進めている。
「マス排」は、できるだけ多くの放送事業者が放送による表現の自由を享有できるようにするために設けられた民放規制策で、原則として一事業者による複数の放送局の経営を禁じている。
ところが、2000年代に入り、ネットの普及で放送業界を取り巻く環境が大きく変わってくると、ローカル局の立て直しを念頭に、規制の例外として、さまざまな「特例」が用意されるようになった。ただ、「特例」は手続きが煩雑で使い勝手が悪く、十分に活用されていないのが実情だ。
こうした中、ユーチューブをはじめとする動画配信サービスの急伸で、テレビライフが激変。民放界では、経営の自由度を広げ、ローカル局の救済を容易にするため、「マス排」の大幅緩和を求める声が大きくなった。
①認定放送持株会社の傘下の放送局の地域制限(現行12都道府県)を撤廃する
②一定数まで異なる放送エリアの放送局を兼営できるようにする
③複数の放送エリアで同一番組を放送できるようにする
「マス排」の柱で残るのは「同一放送エリア内における兼営禁止」程度で、提言どおりに実施されれば「マス排」は事実上の撤廃ともいえる状況になり、民放政策の大きな転換点になるに違いない。
地域経済の疲弊やエリア人口の流出で、ローカル局の経営は厳しさを増している。114局の売上高は、14年の7055億円が、20年には5933億円にまで落ち込んだ。単純平均すれば、1局あたり50億円余でしかない。民放界は「5年以内に経営が立ち行かなかなくなるローカル局が出てくるかもしれない」と危機感を募らせる。
地上放送の勢力図は、1都6県にまたがる関東広域圏のキー局と、2府4県の近畿広域圏および3県の中京広域圏の準キー局の計13局に対し、ローカル局114局のほとんどが都道府県単位に細分化されている、いびつな構図になっている。ただでさえ商圏の小さいエリアに複数の放送局がひしめくローカル局は、どこも経営が苦しいのは自明の理ともいえる。
総務省の民放規制の大転換を受けて、開局が比較的新しい「平成新局」を多く抱えるテレビ朝日はさっそく、東北地方の系列局の集約に乗り出したという。
もっとも、ローカル局の事情はさまざまだ。地元資本が複雑に入り込んでいるケースが少なくなく、一筋縄ではいきそうにない。「地域密着」の独自性を失いかねないと慎重な姿勢を崩さない局もあるだろう。
だが、物理的な境界の概念がない「ネット時代」に、都道府県域にとらわれるローカル局の限界は明らかだけに、現状のままで生き延びるのは容易ではなさそうだ。
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