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    アーカイブ 月刊ニューメディア 2022年12月号 水野 泰志
    国葬でわかった政権と放送局の距離感
      突出して近いフジテレビ、最も遠いテレビ東京…
    Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
     世論の反対が過半を占める中で行われた安倍晋三元首相の国葬。NHKや民放キー局の報道ぶりには、大きな違いがみられた。それは、そのまま放送各局と政権の距離感を感じさせずにはいられない。各局横並びで「哀悼一色」となった55年前の吉田茂元首相の国葬とは、様変わり。多くの視聴者にとって、今後、テレビのチャンネルの選択に影響を及ぼすことにもなりそうだ。
    淡々と報道したNHK
     放送各局は国葬が営まれた9月27日、日本武道館で行われた午後の式典を中心に報道したが、特別番組を組んだ局もあれば、通常番組内で対応した局もあり、構えがはっきりと分かれた。
     公共放送を自認するNHKは、特設ニュースを設け、式典の中継や安倍氏の政治家としての歩みなど、安倍ファンの期待に違わぬ番組を放送した。が、前田晃伸会長が「事実を正しく放送することに尽きる」と明言したこともあってか、国葬に反対する動きや旧統一教会と自民党との関係も詳しく解説、大方の予想を裏切るような淡々とした報道を展開した。賛否が分かれた国葬だけに、かろうじて「みなさまのNHK」の面目を保ったようだ。
    民放の政治的スタスはさまざま
     民放で、もっとも大きく展開したのはフジテレビだった。特番を当初の予定より2時間早めて放送、武道館や献花台の中継に始まり、式典をくまなく生中継した。ワシントン支局からのリポートも交えて安倍外交を振り返り、さらにさまざまな業績を披露するなど、まさに「安倍一色」で編成した。一方、安倍氏暗殺の原点となった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題については、きわめて控えめな報道姿勢に終始した。
     政権寄りとみられてきた日本テレビは、特番を組んで式典を生中継し、VTRで安倍氏の政治的遺産を紹介するなど力を入れたが、安倍氏の負の遺産である森友学園・加計学園や「桜を見る会」についても取り上げ、さらに旧統一教会をめぐる問題も特集。功罪のバランスに腐心しながらの報道となった。
     逆に、政権に批判的とされるテレビ朝日は、レギュラーの情報番組を5時間以上に拡大して驚かせた。もっとも、式典を中継しながら、銃撃事件の捜査の現状を報告し、武道館周辺の小学校の戸惑いも伝えた。番組時間の拡大は、国葬を重視するというより、安倍政権が残した問題や岸田政権が抱える課題をクローズアップするために必要だったともいえる。
     TBSも、通常の情報番組の中で式典を中継、夕方の報道番組では辛口のコメンテーターを起用して国葬に批判的な見解を語らせた。
     どんな大事件が起きても編成をほとんど変えないテレビ東京は、国葬開始直前に5分間だけ報道特番を流したが、その後は予定通り洋画をオンエアした。
     まさに、岸田文雄政権と民意との間における位置取りを示すかのように、各局がさまざまな政治的スタンスで報道したのだった。
    吉田元首相の国葬は式典を逐一中継する放送一色
     1967年の吉田茂元首相の国葬では、各局すべてが式典を逐一中継した。終日、吉田氏の足跡を振り返る番組やクラシックの追悼演奏会などを放送、歌謡番組やアニメなどは取り止め、フジテレビに至ってはすべてのCMをカットした。
     日本民間放送労働組合連合会(民放労連)の当時の機関紙によれば、各局とも「早朝から夜中まで吉田元首相の賛美を繰り返した」として、追悼の名を借りた「放送の1日支配」と断じている。
     安倍氏の国葬で、民放各局が画一的な番組づくりとならなかったのは、放送ジャーナリズムを意識した報道に取り組むようになったことの現れといえるかもしれない。
     民放各局の政治的スタンスがこれほど鮮明になったケースはなく、視聴者はあまり意識していなかった民放の違いに気づいたのではないだろうか。ニュース番組の見方も変わってくるに違いない。



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