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    アーカイブ 月刊ニューメディア 2023年2月号 水野 泰志
    ネトフリに翻弄される日本の放送界
     巨大プラットフォームの独善に術なし
    Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
     動画配信サービス最大手の米ネットフリックス(ネトフリ)が、11月から全世界でスタートした「広告付きプラン」に、番組を提供している放送界が翻弄された。広告とは無縁のNHKは狼狽し、番組のスポンサーとネトフリの広告が競合しかねない民放は悲鳴を上げた。だが、世界をまたにかけるネトフリにとって、日本特有の放送界の事情は取るに足らないことのようだ。巨大プラットフォームの独善的戦略の前に、放送界が対抗する術はなさそうにみえる。
    日本の放送界にとってあまりにも唐突なサービス開始
     番組冒頭にCMが流れるネトフリの新プランは、従来の「広告なしプラン」(月額990~1980円)より安い月額790円。値下げで新たな顧客の獲得を図るとともに、広告収入に道を開く一石二鳥の「秘策」だ。
     ネトフリが、NHKや民放各局に新プランの詳細を伝えたのは、サービス開始直前の11月に入ってから。放送局にしてみれば、唐突感は否めなかった。
     ネトフリに提供した連続テレビ小説「半分、青い。」などの番組の冒頭に大手企業のCMが表示され、あわてたのがNHK。「インターネット活用業務実施基準」で、CMを付けていると誤認させる恐れがある場合は「有料配信事業者などに番組を提供しない」と定めているため、「大変遺憾な状態」(前田晃伸会長)とネトフリに番組配信のストップを要求した。
     日本民間放送連盟(民放連)の遠藤龍之介会長(フジテレビ副会長)は「事前に十分な説明がなく、大変唐突で、非常に強引。不快だ」と不信感をあらわにした。危惧するのは、ネトフリが独自に用意する広告が番組のスポンサーと競合する恐れだ。出演者が専属契約を結んでいる企業とバッティングしかねない懸念もある。民放各局は、ネットで番組を配信する場合も自局でCMの選択をしてきただけに、一斉に反発した。
    強硬に対応できない蜜月関係という事情
     NHKや民放キー局の抗議を受けたネトフリの日本法人は、「広告付きプラン」は米国の本社で決定済みと説明。一時的に一部の番組でCMを停止し、「協議する」と応じたものの、当事者能力はなく、本社の指示待ち状態が続き、その間もCM付き番組は流れ続けた。
     「遺憾」というなら、放送局は直ちに番組を引き上げればよさそうなものだが、そう簡単にいかないから厄介だ。ネトフリを通じて、地上放送ではリーチしにくい若年層に番組を届けたり、海外市場に番組を配信できるメリットは大きく、高額といわれる番組提供料も魅力的で、密月関係を深めてきた経緯があるためだ。
    放送界が思い知った「コントロールが利かない事態」
     ネトフリは、コロナ禍の巣ごもり需要もあって世界中で大幅に加入者を増やし、有料会員数が2億2000万人に膨れ上がったが、コロナ禍が一段落した2022年に入り、一転して会員が減少。危機感をもったネトフリが新たに打ち出したのが「広告付きプラン」で、サブスクリプション(定額契約)に加えて、より市場の大きいネット広告に狙いをつけた。
     経営方針の大転換であり、世界戦略の大展開にあたって、日本特有の放送界の商慣習が十分に考慮されるはずもなかったといえる。
     今回の一件で、放送界は、巨大プラットフォームが強力な味方になる一方で、自らのコントロールが利かない事態に直面するリスクを思い知らされたに違いない。



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