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アーカイブ 月刊ニューメディア 2023年4月号 水野 泰志
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
動画配信サービスの老舗「GYOA!(ギャオ)」が、3月末で18年の歴史に幕を閉じることになった。無料サービスでは今なお多くの利用者を獲得しているにもかかわらず店じまいに至った背景を探ると、コロナ禍の巣ごもり需要が一段落して成長に陰りが見え始めた動画配信市場の変容が見えてくるようだ。
「GYOA!」は2005年、有線で音楽配信を手がけるUSEN(現USEN-NET HOLDINGS)が設立した「GyaO」に始まる。「完全無料パソコンテレビ」がキャッチフレーズだった。ちなみに、世界の動画サービスを牽引する「YouTube」がサービスを始めたのは同じ年。世界最大の映像配信事業者である「ネットフリックス」のスタートは2年後の07年だ。
創業当時は、通信回線がまだ貧弱で、動画の視聴環境は決して快適とはいえなかった。このため、先進的な取り組みだったにもかかわらず、ビジネス面では苦戦。09年には、USENの手を離れてヤフーの子会社となり、11年度に初めて単年度黒字化を達成した。現在の社名「GYAO!」に変わったのは、大幅増資でテコ入れを図った14年だ。
「GYOA!」は、月間400万人近い利用者を獲得するまでになり、主要ブランドとしての地位を確立した。しかし、無料サービスでは、「YouTube」が圧倒し、民放各局が共同運営する番組配信サービス「Tver」(15年開始)やサイバーエージェントのネットテレビ「ABEMA」(16年開始)が急速に利用者を増やしている。また、サブスク(定額制)の有料サービスでは、1000万人を超える会員を集める米アマゾン・プライム(15年開始)や400万人超を抱える米ネットフリックス(15年開始)の“黒船組”が席巻している。
ライバルがひしめく中、「GYOA!」が健闘してこられたのは、民放各局の番組を提供する「公式配信」を手がけてきたからだ。以前は、放送された番組がネットで配信されることはほとんどなかったうえ、海賊版対策の面からも重用された。
しかし、民放各局は「Tver」にシフトし、「見逃し配信」という主力コンテンツの優位性が崩れてしまった。また、「ABEMA」は、サッカーのワールドカップの全試合を無料配信という強力な独自コンテンツで一挙に存在感を高めた。さらに、“黒船組”は、豊富な資金力をバックに、他のサービスでは見られない映画やドラマを次々に供給している。
親会社のヤフーに引きずられて、スマートフォンへの取り組みが遅れたのも響いたようだ。
国内勢からも“黒船組”からも追い立てられて、独自色を出せない「GYAO!」の生き残りは難しくなり、見切りをつけざるを得なくなったといえる。
「GYOA!」を運営してきたZホールディングスは、スマホの縦型ショート動画サービス「LINE VOOM」に経営資源を集約するというが、この分野では「インスタグラム」や「TikTok」が広く利用されており、9000万ユーザーを抱える「LINE」でも、割って入るのは容易ではない。まして、傘下の「ヤフー」と「LINE」とともに23年度中に合併することが決まり、屋台骨が揺れている。
動画配信市場は、これからもさまざまなサービスが登場するとみられるだけに、熾烈なサバイバル戦が続きそうだ。
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