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アーカイブ 月刊ニューメディア 2023年8月号 水野 泰志
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
最古の週刊紙とされる「週刊朝日」が、5月末で101年の歴史に幕を下ろした。週刊誌の凋落を象徴する「事件」として、出版界内外から追悼の辞が寄せられ、一つの社会現象となった。印刷メディアの衰退は語られて久しいが、休刊を余儀なくされた主因はネットメディアに活路を見出せなかったからではないだろうか。雑誌ジャーナリズムの生きる道は、印刷メディアだけに限らないはずだ。それは週刊誌が抱える最大の課題といえる。
「トップが悪いんじゃないですか。100年も続いた大事な雑誌をやめるなんて」
女優の吉永小百合さんが、5月30日発売の最終号(6月9日号)に寄せた「週刊朝日とわたし」と題する一文の中の強烈な一節である。
まさに、その通りだろう。ネット社会の進展に対応できず、休刊という悲劇を招いた経営陣と編集幹部の責任は重い。
1990年代後半にピークを迎えた出版市場は、2000年代に入ると縮小トレンドに変わり、「出版不況」が叫ばれるようになった。2010年代には、SNSの広がりやスマートフォンなどモバイル端末の普及で、印刷メディアの限界とネットメディアの優位性は誰の目にも明らかになった。
1950年代に150万部超の発行部数を誇った「週刊朝日」だが、2022年12月には7万4125部にまで落ち込んだ。全盛期のわずか5%という壊滅的状況だった。
発行元の朝日新聞出版は、休刊の理由に「週刊誌市場の販売部数・広告費の縮小」を挙げたが、休刊に至る苦境は10年以上も前から推察できたにもかかわらず、過去の栄光にとらわれ、活版ザラ紙という印刷メディアにこだわり続けた結果、「葬式」を出さざるを得なくなったのである。
日本雑誌協会のデータで、2023年1~3月の平均発行部数を10年前と比べると、週刊朝日と同根のAERAは47.2%減の6万4300部、ライバル誌のサンデー毎日が68.8%減の4万2264部と、青息吐息だ。スクープ「文春砲」を連発する週刊文春でさえ33%減の46万6583部とジリ貧で、週刊現代33万6667部(40.7%減)、週刊ポスト29万1000部(39.3%減)、週刊新潮28万9811部(49%減)も、軒並み4~5割減という惨憺たる有り様だ。
週刊誌の存在感が希薄になっていくのは、もはや不可避だろう。
だが、週刊誌を主舞台とする雑誌ジャーナリズムまで衰退するとがっかりするのは早計に過ぎる。
スクープした記事の流通ルートを考えてみたい。印刷メディアでは、印刷・製本した後、トラックで配送し、書店やコンビニで、ようやく読者は手にできる。これに対し、ネットメディアは、通信ネットワークを介して直接読者に届けられパソコンやスマホで再現される。いずれも、読者は同じニュースを見ることになるが、ネットメディアは用紙代、印刷代、配送代などはほとんどかからないため、流通コストは劇的に抑えられるだろう。
月ぎめの新聞と違って、週刊誌は、読みたい記事を見つけた人が、その都度、購入するというビジネスモデルだ。
このため、週刊誌を丸ごとネットメディアとして展開しても、今までお金を出して読んでいた人は、読みたい記事があれば、印刷メディアと同じように、その都度、購読することが期待される。
「家に持って帰って家族みんなで楽しめる」新聞社系週刊誌であれ、「電車の網棚にでも読み捨ててくればいい」という出版社系週刊誌であれ、新聞やテレビが報じにくいニュースやスキャンダルを暴く雑誌ジャーナリズムの真髄は、印刷メディアが消え行こうとも、朽ちることはないと信じたい。
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