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アーカイブ 月刊ニューメディア 2023年12月号 水野 泰志
公取委、あまりの安さに悲鳴を上げる報道機関を後押し
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
公正取引委員会が9月下旬、ヤフーやグーグルのニュースプラットフォーム事業者と記事を提供する新聞や雑誌の報道機関との取引実態について調査報告書をまとめ、適正価格の設定に向けて両者の直接協議を促したうえで、記事の使用料が著しく低い場合は「独占禁止法上問題になる」と警告した。欧米各国では報道機関を後押しする規制が進んでおり、ようやく日本も一歩を踏み出したといえる。だが、なかなか結束できない報道各社が巨大IT会社と渡り合って正当な対価を得られるかどうかは不透明だ。
報告書は164ページにも及ぶ大部で、ニュース記事の取引について価格水準まで明らかにした初めての本格調査だ。これまで当事者の利害関係が入り乱れて実態は霧の中だっただけに、公的機関が乗り出した意義は大きい。
冒頭で「ニュースが国民に適切に提供されることは、民主主義の発展にとって不可欠」と強調。ニュースを取得する媒体が新聞・雑誌からポータルサイトや検索サイトへ急速にシフトする中、プラットフォーム事業者の力が大きくなりすぎて、良質で正確・公正なニュースを享受できなくなる懸念を示した。
報告書で明らかになったのは、ポータルサイトに掲載される記事の使用料が格安に設定さている実態だ。
プラットフォーム事業者(大手6社)が報道各社に支払う記事使用料の平均は1000PV(閲覧数)あたり124円(最大251円、最少49円)。つまり、記事を1回読む場合の購読料は0.124円である。
新聞の場合、一部売り180円の朝日新聞で、150本程度の主要記事が掲載されているとして、1記事あたりの単価は1.2円となり、ポータルサイトの購読料は実に10分の1でしかない。記事の対価が、ネットと紙ではあまりに違うのである。
ところが、ニュースを取得する媒体は、2013年から22年の10年間で、新聞が60%から18%に激減した一方、ポータルサイトなどは20%から66%に急増(総務省調べ)。プラットフォーム事業者への依存は高まらざるを得ない状況になっている。
こうした実情を踏まえ、報告書は、報道機関の約6割にとって最大の取引先となっているヤフーを名指しして「優越的地位にある可能性がある」と指弾した。
さらに、適正な使用料を得られるよう、「団体交渉」などさまざまな方策を提案。日本音楽著作権協会(JASRAC)のように、報道各社が記事の著作権を1カ所で管理して使用料交渉をする「新聞版JASRAC」を構築することも選択肢に挙げた。
さっそく、日本新聞協会は「ネット上の健全な言論空間を守るため、プラットフォーム事業者は報道機関と真摯に協議するよう求める」との見解を出した。
新聞の凋落は底なしで、2023年上期(1~6月)の新聞総発行部数(ABC協会調べ)は2679万部で、ピークの1997年から半減、今や新聞社の「敵」は、業界内ではなくプラットフォーム事業者であることはだれの目にも明らかだ。しかし、新聞各社の経営陣はいまだに業界内のコップの中の争いに汲々としている。最大手の読売新聞は、発行部数が「朝日+毎日」より多いことを自慢しているほどだ。
ヤフーは早々に契約を見直す方針を明らかにしたが、当の新聞各社が長年の恩讐を超えて一致結束できなければ、公取委のせっかくの援護射撃も水泡に帰しかねない。
このまま、新聞離れに悲鳴を上げ続け、巨大IT会社の手のひらで踊らされ続ける…そんな気がしてならない。
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