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アーカイブ 月刊ニューメディア 2024年6月号 水野 泰志
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
新聞広告とネットの連携について、日本新聞協会が初めて本格的な調査を行い、「新聞広告とネットの組み合わせで相乗効果を発揮できる」とする報告書をまとめた。退潮著しい新聞の総広告費はピーク時の3割弱にまで激減し、かつてのような広告効果が見込まれなくなっている。そうした中、ライバルのネットとの協業で活路を開こうという訴えからは、わらにもすがりたい必死さが伝わってくる。はたして新聞広告の復権につながるだろうか。
「新聞×ネットが生み出す広告シナジー~多メディア時代における新聞の役割とメディア接触者の動向調査」と銘打った今回の調査は、2023年秋に実施。その特徴は、調査対象者をメディアの利用実態に応じて①新聞・ネット利用者②新聞・テレビ利用者③テレビ・ネット利用者④ネット利用者⑤テレビ利用者の5群に分けて、それぞれの意識や行動を調べたことだ。新聞広告がネット利用者にリーチする実態を詳細に調べ、広告主の広告戦略に新聞広告の強みを再認識してもらうことに力点が置かれている。
報告書はまず、「情報が正確で信頼性が高い」(46%)新聞と、「日常生活に役立つ」(50%)ネットは、対立関係ではなく補完関係にあることを強調。次いで、ソーシャルメディアで新聞広告に関する投稿を見たことがある「ネット利用者」が46%に上り、さらに「いいね」など何らかのアクションをした人は28%もいたと詳述、いずれも若年世代(15~39歳)が中高年世代(40歳以上)より高い数字を示したという。一方、ネットで見た広告を、新聞でも見た場合に「理解が増す」と答えた人は39%、「信頼性が増す」は32%と、テレビよりも高いスコアを記録した。
こうした結果を踏まえ、新聞広告が、日常的に新聞に接しない若年層にもソーシャルメディアを通じてリーチできる可能性を力説した。つまり、新聞とネットを組みわせることで、新聞広告の強みを生かして広告の訴求力を高めることが期待できるというのである。
だが、新聞広告の窮状をみると、こうした訴えが、どこまで広告主に刺さるかは見通せない。
電通が2月末に発表した「2023年日本の広告費」をみると、国内の広告費は前年比3.0%増の7兆3167億円と、2年連続で過去最高を更新。新聞やテレビからネットへの移行がさらに進み、ネットは7.8%増の3兆3330億円となった。一方、新聞は5.0%減の3512億円、テレビも3.7%減の1兆7347億円にとどまり、マスコミ4媒体を合わせても2兆3161億円(同3.4%減)と、束になってもネットにはかなわない事態が続いている。
新聞の広告費は、1990年代後半に1兆2600億円余を売り上げ、わが世の春を謳歌していたが、今やその28%にまで縮小、広告費全体の5%にも満たなくなってしまった。肝心の新聞の総発行部数が、1997年の5376万部から2023年10月には2859万部と、ほぼ半減。媒体力が著しく低下しているだけに、新聞広告の復権は容易ではない。
新聞がネットに抜かれたのは2009年だが、それでも現在の倍近い6700億円以上あった。だが、当時の新聞界は、ネットを目の敵にしていて連携しようとする動きはほとんどなかった。その時点で、新聞とネットのシナジー効果を強力に打ち出していれば、広告主にアピールできたかもしれない。
成功体験を引きずった新聞経営陣の先見性のなさが、新聞界の衰退を招いたことは隠しようもない。ネットとの連動で新聞広告が活性化するなら喜ばしいのだが・・・
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