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アーカイブ 月刊ニューメディア 2024年10月号 水野 泰志
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
ふるさと納税の寄付額が2023年度に1兆円を突破した。返礼品の仲介サイトを運営する民間業者に入る手数料が1000億円をはるかに超えるとみられる中、ついに総務省はポイントをエサに集客する仲介業者を締め出す決断を下した。悲鳴を上げたのが最大手の楽天グループで、新ルールの撤回を求めて署名運動を始めた。だが、制度の趣旨をねじ曲げて稼ごうとする仲介御者に理はない。抜本的に制度を見直し、ゆがみを正すタイミングに来ている。
総務省によると、23年度の寄付総額は、前年度から1521億円増えて1兆1175億円(16%増)と、ついに1兆円の大台を超えた。利用者も約107万人増えて1000万人に達した。住民税納付義務者の6人に1人が利用している計算になる。この数字を見る限り、制度が発足した2008年から15年を経て、すっかり定着したようにみえる。
だが、市場のひろがりとともに、弊害を指摘する声も高まってきた。
・手数料稼ぎのサイト仲介業者による税金のかすめとり
このため、総務省は、徐々に規制を強めてきたが、菅義偉前首相が総務相時代に肝煎りで始めた政策とあって、なかなか強硬策には踏み切れなかった。
そんな中で6月末、ついに「自治体が、ポイントを付与するサイトを通じて寄付を募ることを、2025年10月から禁止する」と宣言したのだ。高額な手数料やサポート料を自治体から徴収して税金である寄付金を実質的にふところに入れてしまう仲介業者を自治体から切り離そうという、本気度がうかがえる是正策の導入である。ターゲットは、「楽天」「さとふる」「ふるなび」「ふるさとチョイス」などの大手仲介業者だ。
ふるさと納税は、大都市圏から地方に税収の一部を移転させる仕組みだが、寄付を受けた自治体や地元の生産業者が潤うなら制度の本旨に沿うと言えるが、返礼品サイトを展開する中央の仲介業者がごっそり寄付金をかすめ取っていく事態は想定外で、受け入れられるはずもない。
総務省は、民業である仲介業者の事業に口をはさむことは困難でも、自治体に仲介業者選びのガイドラインを提示することはできる。これにより、ポイントにつられる寄付者の心理を冷やす効果は確実にあるだろう。
新ルールに激しく反発したのが、最大手の楽天グループだった。各社が容認の構えを見せる中、三木谷浩史会長兼社長は「自治体と民間の協力を否定するもので、地方の活性化という政府の方針に大きく矛盾する」と主張、撤回を求める署名活動を始めた。
背景には、ふるさと納税を基点にした楽天経済圏の広がりに水を差されかねないという危機感がある。楽天モバイルの巨額赤字を抱える中、濡れ手にアワで手数料を稼げるふるさと納税事業は、きっとおいしいのだろう。
だが、こうした楽天の振る舞いは、天にツバを吐くものといえる。「地方活性化に貢献したい」というのであれば、ボランティア精神を発揮して、10%を超える高額の手数料をクレジットカード並みの3%程度に押さえてはどうか。「それではビジネスにならない」というなら、さっさと撤退すればいい。
その結果、自治体の宣伝媒体が激減するかもしれないが、過熱する一方の返礼品競争は落ち着き、本来の趣旨に沿った運用に戻ることが期待される。ふるさと納税はビジネスではなく、寄付であり、その元手は税金なのだ。もうけ優先の民間業者は、ふるさと納税にはそぐわない。
メリットが多い制度だけに、「廃止」の議論が起こる前に、頭を冷やして適切な運用のあり方を探ることが求められる。
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