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アーカイブ 月刊ニューメディア 2025年4月号 水野 泰志
「日枝天皇と一族」が消えずしてフジテレビ新生の道なし
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
元タレントの中居正広による女性とのトラブルに端を発して大炎上した「フジテレビ事件」は、メディア界全体を巻き込んだ一大スキャンダルに発展した。さまざまな論点が浮上し、新聞・テレビの既存メディアからネットメディア、自称ジャーナリストに一般庶民まで多種多様な意見や主張が入り乱れ「百家争鳴」の様相を呈している。だが、冷静に全体像を見渡せば、事件の核心はフジテレビの企業風土に帰着する。過去と決別して新生するためには企業風土の全面的刷新が不可欠で、「日枝天皇とその一族」が姿を消す以外に道はなさそうだ。
「フジテレビ事件」は、芸能界とメディアという注目されやすい舞台で、中居正弘、フジテレビ、週刊文春…と著名な役者がそろい、トラブルと称する性接待、9000万円示談話、女子アナ上納疑惑、中居芸能界引退、スポンサーのCM撤退、フジテレビ社長・会長辞任、週刊文春の第一報誤報、10時間超のやり直し記者会見、「日枝天皇」の経営責任追及…と、仰天するようなストーリーが次々に演じられ、否応なく世間の耳目が集まり、「一億総評論家」のお祭り騒ぎになった。
あらためて論点を整理してみると、 ① 発端となった中居正広のトラブルの事実関係 ② フジテレビのトラブル把握後の対応の妥当性 ③ 女性に対する人権意識のレベル ④ 記者会見の失態 ⑤ ガバナンスの実情 ⑥ 経営陣の責任 ⑦「日枝天皇」の去就 ⑧ スポンサーの動向 ⑨ 監督官庁の総務省との距離感 ⑩ 社会的信用回復の方策 など、実に多岐にわたる。
これらを俯瞰した時に見えてくるのは、「フジテレビ事件」の本質が「日枝天皇」の下で培養された「日枝王国」の企業風土そのものにあるということだろう。
フジテレビの歴史は、草創期から約30年間にわたり鹿内信隆元社長に始まる「鹿内帝国」の支配が続いたが、1992年に日枝久社長(当時)が社内クーデターで実権を握り、「日枝王国」を築いて30年以上君臨してきた。「日枝天皇」は、現在の企業風土を形づくった本家本元といえる。
「日枝天皇」の剛腕は、トップ人事に表れている。フジテレビが低迷期に入った2010年代半ば以降、社長は頻繁に交代し、会長も系列局に左遷されながら、後に復職した。こうした不透明で特異な人事が行われてきたのも、「人事権を握っている事実上のトップがいるから」とフジテレビ関係者は言う。
今後の最重要なテーマは、フジテレビが社会的信用を回復するためには、どのような景色になれば受容されるのかという命題だ。
だれにもわかりやすい明快な方策は、経営陣や幹部の一新という人事にほかならない。
一連の不始末に「日枝天皇」は直接タッチしていないかもしれないが、背景に「日枝王国」の企業風土がある以上、道義的責任は免れない。
もっとも、「日枝天皇」がいなくなるだけでは十分とはいえない。「日枝天皇」に任じられた役員や重用されてきた幹部らの「日枝一族」が一掃されて初めて、新たな企業風土の醸成が始まるのではないだろうか。
「フジテレビ事件」の真相を探り再発防止策を提言する第三者委員会の報告は、3月中にもまとめられる。だが、「日枝天皇」の去就まで踏み込めるかどうか。「物言う株主」の外圧や、総務省の行政指導にも限界があるだろう。
「鹿内帝国」を葬ったのは「日枝天皇」だったが、「日枝王国」に幕を引くのも「日枝天皇」にしかできないかもしれない。
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