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アーカイブ 国際観光施設協会 コラム 2012/04/01 佐野 桃子
佐野桃子の観光インタビュー 東京地下鉄株式会社 梅﨑壽 取締役相談役
梅﨑 壽様 経歴 昭和41年4月 運輸省(現国土交 省)採用 平成11年7月 運輸省(現国土交 省)運輸事務次官 平成14年8月 帝都高速度交 営団(現東京地下鉄株式会社)副総裁 平成16年4月 東京地下鉄株式会社代表取締役社長 平成23年6月 東京地下鉄株式会社取締役相談役 現在に至る
Qお忙しいところお時間をとっていただき、ありがとうございました。 日本の観光がさらに発展するためには、東京の観光資源が充実するだけでなく観光基地にならなくてはならないと考えていました。その中で“TOKYO WONDERGROUND”の方針を打ち出していらっしゃる東京メトロには憧れをもっていましたので、今日実際にお目にかかれて大変光栄です。
梅﨑相談役: そう言っていただくとこちらこそ光栄です。私は昭和47年から49年にかけて、当時の運輸省で観光部の課長補佐をしていたので、観光についてはいろいろ考えるところがあります。もう40年も昔になりますね。
Q課長補佐時代というのが、一番張り切って、ヤンチャに頑張れる時期ですよね。そのころは海外旅行が急に脚光を浴びた時代ではないでしょうか?
梅﨑相談役: そうそう、海外旅行が急速に普及した頃です。農協ツアーなどが台湾や韓国にくりだして、問題行動もいろいろあって、市民団体のおばさんたちにガンガン怒られて、役所にも抗議に見えて、おかげで、かえって仲よくなったおばさんもいましたね
それは、戦後海外旅行が自由化された少しあとの時代で、JTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行などの大手旅行業者が率先してアウトバウンドの観光に力を入れ始めた頃です。中堅旅行業者もたとえば、ヨーロッパでは MIKI ツーリストのような日系の会社がしっかり現地手配をしてくれたので、海外旅行を取り扱うようになりました。大手旅行業者の社内ではそれまで主流だったインバウンドの人たちが小さくなり、かわりにアウトバウンドの人たちが大きな顔をするようになりました。
今政府が一生懸命推進している、訪日外客数を増やす計画が思ったように伸びていないのは、インバウンドがビジネスとしてもっと成立し、しっかりした儲けを生み出すことができる仕組みがまだ不十分なせいではないかとわたしは思っています。そこを皆で知恵を出し合って考えたらと思います。
Qそうですよね。儲けがでないところに企業は力をいれないですね。当たり前のことですけれど、この要素をしっかり考えてみないとだめですね。
ところで、梅﨑様の目には、東京の観光はどのように映っていますか?
梅﨑相談役: 新しいものと古いものがミックスされている。自分に合ったものを選ぶことができるほど選択肢が幅広くあること。それから安全であること。かつて大変危ないといわれたハーレムがあるニューヨークも今は安全なようですが、東京はさらに安全です。あと、食文化ですね。東京には日本食はもちろん、世界中のおいしいものがみな揃っている。それから、案外日本人自身は気づいていないようですが、日本人のおもてなしの心はとても評価されていると思います。
「日本に来て何がよかったか」というアンケート調査をすると、「日本人は親切で良かった」という答えが大変多いのです。
梅﨑相談役: 第1に円高もあって値段が高いことでしょうね。これは競争力を著しく低下させます。その次に言葉の問題。東京メトロでは営団時代から一部路線で英語の車内放送をしていましたが、民営化を機に全路線で行うようにしましたし、外国語の案内表示にも力を入れています。
Qそれでは、具体的にどのような改善がハードでは行われていますか。
梅﨑相談役: 商業施設では Echikaをまず挙げたいですね。表参道駅などにある駅構内の店舗街です。Echika表参道はおかげ様で大成功。表参道はファッション関係の店が多く、気軽に入れるカフェやレストランが少なくて困っている方がおられ、そういう方々がお客様になりました。霞ヶ関駅構内のカフェは営業的には良かったのですが、「駅や車内では禁煙なのに、なんでコーヒーショップで喫煙が許されているの?」と苦情がたくさん来ました。今は、禁煙の店にして再出発したところです。
それからトイレは、路線によってはたいそう古い設備なので、多機能トイレなど最新の設備に改良しています。トイレの専門のデザイナーにも手伝っていただき、モダンなトイレを作ったりもしています。
また、エレベーターなどのバリアフリー設備の整備にも懸命に取り組んでいます。 今、一番力を入れているのはホームドアです。ホームと車両の間に隙間が広くあってもステップがホーム側から出て、安全に乗り降りできます。酔っぱらったりしてホームに落ちる方もかなりいるので、このドアがあれば、そのような事故を未然に食い止めることができます。ホームドアを平成 3 年に南北線で取り入れたのが、地下鉄での導
入第一号です。それ以来丸ノ内線、副都心線そして今、有楽町線で取り付け工事をやっています。次は銀座線を行う計画です。ホームドア自身は外国で開発されましたが、ホーム側からステップが伸びるような行き届いたシステムは日本で開発されました。お金もかかるし、ホームは狭くなるので、なかなか一気に導入はできないのですが、安全上大切なことなので、なるべく早期に導入したいと思っています。
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鉄道人身傷害事故の原因 の件数と内訳(平成22年度)東京地下鉄株式会社安全報告書2011
Q大賛成です。安心感を与えてくれます。頭の良いシステムだと日頃から関心していました。重大な事故をゼロにし、ダイヤの遅れを防ぎますね。 ところで、ソフトでの改善はいかがでしょうか?
梅﨑相談役: 東京メトロがやっている、外国人向けサービスの現状という資料がありますから、ご覧ください。
外国人が困ったとき駅員に話かけてくれれば、駅から外注の外国語 訳サービス会社に電話をし、英語、中国語、韓国語で話ができるようになっていますし、サービスマネージャーを都内の 14 駅に配置しています。英語で受け答えができるだけでなく、ipad を使って、いろいろな質問にお答えします。 ipad 導入の提案をしたのは若い社員ですから、わたしも感心しました。
語学対応は日本が一流の観光国になるためには重要だと思っています。前にお話しした り、営団の時にすでに英語の車内放送は開始していました。サイネージは英語は全部、中国語、韓国語は一部行っていますが、中国語、韓国語はもっと強化したいですね。
Q後にお聞きしたいのですが、大変お忙しい毎日のなかで、気分転換はどのようになさっていますか?
梅﨑相談役: 趣味は庭いじりや蘭の栽培です。胡蝶蘭を植え替えて、家にある37鉢中、去年は29鉢も花をつけました。最初は水苔でやったのですが、根腐れを起こしてうまくいきません。天然樹皮をベースにした培養土を使い始めましたら、とてもうまく育ち、開花するようになりました。咲くときれいだし、熱心にやっていますが、家内からはただ咲かせているだけではないかとも言われています。
佐野: それはすごいですね。うちも水苔でやろうとして、材料と道具だけはそろえたのですが、1度もまともに咲かせることはできませんでした。
植物をゆっくり眺めながら世話をするのは至福の時間ですね。
本日はよいお話をいろいろ聞かせてくださり、ありがとうございました。
インタビュー後記 梅さんはとても広い視野を持った方で大変な勉強家。お話しも面白いとうかがっていて、一度お会いさせていただきたいと長い間憧れていました。 経歴はまさに日本の正統派超エリート!!実際お会いしたら、とても気さくな方で、温かい方でした。TOKYO WONDERGROUNDのおしゃれなCMや、楽しい東京メトロのロゴグッズのお話が出るかなと思っていたら、一押しで話してくださったのは利用者の安全を守るホームドアのお話でした。 毎日毎日、630万人を安全に運んでくださって、ありがとうございます!!
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