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    アーカイブ 西日本新聞社編 書評 2024/02/10 豊田 滋通
    掘るだけなら掘らんでもいい話 寓話に込めたアカデミズム批判 藤森栄一著(新泉社)
     雨上がりの庭で、幼い兄弟がミミズを掘っている。兄は「ミミズが鳴く」という母親の話を信じて缶にしこたま貯め込んで縁の下に隠した。夜更けまで何度も耳を当ててみたが、鳴かなかった。やがて動かなくなり、兄はミミズのことを忘れた。後日、弟が缶を見つけたが兄は見向きもせず、ミミズは缶の中で錆びた釘のように固まっていた―。
     巻頭の「若き考古学の友へ」という副題の随筆『掘るだけなら掘らんでもいい話』は、遺物の蒐集に血眼になる考古学者の実態をミミズ掘りに例えた「寓話」。著者は若き学徒に向かって、蒐集癖から出発した考古学が「物への執着」のあまり無茶苦茶に資料を掘りまくったことを糾弾する。さらに、自分の「ミミズ」を他人には見せず、「俺のミミズを無断で使った」とわび状を迫る姑息な学者も痛烈に批判。考古学は「何が出るかではなく、何のために掘るかが終局の問題」と訴えるのだ。
     著者は、縄文時代の焼畑農耕論や信州諏訪地方の遺跡研究で多くの業績を残した在野の考古学者。「在野」であるがゆえに、大学の考古学が陥った陥穽の本質と深刻さを見抜いたのだろう。そこには、学外にいたために著者自身が嘗めた辛酸も投影されているようだ。「掘るだけなら―」が書かれたのは、戦前の一九三八年。既に八十年以上が経過しているが、現代の考古学界はこれを「過去の話」と一蹴することができるだろうか。
     本書は、著者の没後五十年記念論集である。全体は三部構成で、第一部がエッセー、第二部は縄文と弥生時代の諏訪に関する論文集。遺跡分布で諏訪湖の時代ごとの変化を論証した『諏訪湖の大きかった時と小さかった時』や、諏訪大社の起源と諏訪信仰の深層に迫った『諏訪大社』も興味深い。
     さらに第三部で、著者の矛先は『発掘ジャーナリズム』に向かう。一九六六年の時点で、「日本最古」や「国内最大」などのトピックをがむしゃらに追い求めていた新聞に「読者は、そんなに珍しいことだけしか飛びつかぬほど(意識が)低いのだろうか」と慨嘆する。かつて新聞社に身を置き、掘り出し(発掘)ネタを追った一人として、耳の痛い指摘である。
     評 豊田滋通(歴史ライター)
    【著者略歴】ふじもり・えいいち=長野県生まれ、考古学者。アニメ映画『となりのトトロ』の姉妹の父親のモデルともされる。戦後、諏訪考古学研究所を設立。長野県考古学会会長を務め、遺跡保護運動にも従事した。主な著書に『信濃諏訪地方古墳の地域的研究』(伊藤書店)『かもしかみち』(葦牙書房)『諏訪大社』(中央公論美術出版)など。
    (2024年02月10日付・西日本新聞)



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