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    アーカイブ やぶ睨み「ネット社会」論Ⅱ 2020/04/01 内海 善雄
    感染者との接触を回避するるためになぜICTを活用しないのか?(2020年4月1日 エルネオス4月号 掲載)
     ここ数か月間、メディアに釘付けになってコロナ報道をフォローしたが、政府の対策や専門家と呼ばれる人の発言には、手遅れや、人命を軽視したものが目に付き、呆れはてる。
    呆れた政府の対応
     第一に、初期の水際作戦で、他国と比較して日本が極めて不十分なことしか行わなかったことである。各国が発症国の中国からの入国を厳しく制限しているのに、習主席の訪日延期が決まってようやく本格的な制限に踏み切った。国民の命を犠牲にしてまで中国に配慮しなければならない理由はどこにあるのか?
     第二に、PCR検査を極端に制限したことである。いろいろ理屈を並べ立てているが、真意は感染者数を何としても抑え、オリンピックを開催したかったためだろう。人命を軽視してまで、オリンピック開催をやりたい理由はどこにあるのか? 結局、アスリートからも見放され、感染者がどれだけいるのか不明な国として、国際的な信用も失った。延期されても、なおPCR検査抑制の擁護を、屁理屈を付けて発言し続ける専門家は、見苦しい。 
     第三に、個人情報の保護を理由に、感染者の場所や、行動歴を公開しなかったことである。どこに感染リスクがあったのか不明なため、未発症の感染者は野放になりウイルスをばらまいた。人命と個人情報の保護とどちらが大事なのか? 稀ではあるが、クラスターが発生したライブハウス名や感染者が利用した電車の座席の位置まで積極的に開示してリスクの高い者を名乗りださせ、感染の拡大を阻止した知事がいたことが救いである。
    努力したクラスターの追跡
     かくしてウイルスが市中に拡散され、今日の状況に立ち至ったのだが、政府が取った対策で褒められるのもある。それは、症状が出た者の行動を個別に詳細に調べ、濃厚接触者やクラスターを割り出す努力を懸命に行ったことである。この方法による感染拡大防止は、感染者が少ない段階では有効だったと思う。おかげで、欧米のように急速なオーバーシュートを起さず、何とか長く持ちこたえることができた。
     政府や専門家は、日本が欧米に比して長く持ちこたえたことに自画自賛しているが、これは独りよがりであると思う。清潔な環境、手洗いの励行、マスクの着用、そして握手やハグをしない日本の社会習慣が大きく寄与したことを忘れてはならない。そして台湾、シンガポールなど、中国との交流が多く、本来的にリスクが高かった国が、我が国よりよほど感染をコントロールできている事実もよく認識してほしい。
     さて、ウイルスが拡散して感染経路や無症状感染者を割り出せなくなると、無差別に人と人とが接触することを抑制することしか感染の拡大を抑える方法がなくなる。「緊急事態宣言」は、まさにこのような状況下での苦肉の策だ。だが、遅すぎた上に、ロックダウンに比べると極めて手ぬるいものなので、たとえ人々が政府の要請に完全に従ったとしても、終息させるほどの効果が出るのか疑問である。
    ディジタル・トラッキング
     しかし、ディジタル時代、スマホの位置情報などICT技術を活用すれば、合理的かつ効率的に感染リスクの高い者を発見することが可能であるし、非感染者との接触も予防できる。例えば台湾では、当初より感染者や感染可能性のある者をスマホの位置情報で常に監視し、自宅隔離の実効性を担保しているとのこと。日本では自宅待機や自宅療養の場合、報道によると定期的に電話連絡を取るそうであるが、それで完全な隔離が可能なのだろうか。
     また、長い期間武漢を封鎖した中国では、異なる方式を使用している。アリババ傘下の決済サービス「アリペイ」が導入した「アリペイ健康コード」である。ユーザの健康状態を「緑」「黄」「赤」のQRコードで表示する。このQRコードは、自己申告の健康情報に加えて、政府所有の感染者との接触、感染地域への立ち入り、公共交通機関の利用などの情報をもとに生成され、「緑」であれば自由に移動できるが、「黄」の場合は1週間、「赤」の場合は2週間の自宅待機が求められるという。交通機関の利用や建物に立ち入る際にこのQRコードをチェックされ、例えば杭州ではこのコードなしには出歩くことが事実上不可能だそうだ。政府お墨付きのいわば「ディジタル通行手形」である。
     感染が各国に拡大するにつれ、多くの国が感染者と非感染者との接触を回避するツールとしてこのような各種のディジタル監視システムを導入し始めている。一方、この機に及んでもプライバシー保護が大事だと思う者はいるもので、各国の動向を監視するサイトを立ち上げている。
    注目すべきPEPP-PT
     そのようななかで注目されるのは、PEPP-PT(汎欧州プライバシー保護近接追跡プロジェクト)である。スイス・ローザーヌ工科大学など欧州8か国の研究者たちが、EUの厳しい個人情報保護のルールを侵害することなく、ウイルスの感染者を追跡できるシステムを開発した。その概要は、以下のようなもの。
     アプリをダウンロードしたスマホは、自動的に微弱電波を発信する。その電波を受信した別のスマホは、距離と時間から濃厚接触したと判定されるスマホを暗号化して記録する。もし、あるスマホのユーザが感染した場合、自発的に公的な通知機関に暗号開示のキーを送る。通知機関は記録を解読し、近接端末に注意喚起を発信するというもの。
     研究者たちは、このシステムが政府の外出禁止令に代わる有効なウイルス封じ込め策になりうると期待し、プロジェクトに各国や企業に参加を呼び掛けている。
     ワクチンが開発されるまでには相当な時間がかかる。ウイルスは二波、三波と押し寄せてくる。都市封鎖などは長くは続けられない。ウイルスとの闘いに勝つためには、一にも二にも感染者と非感染者との接触を避けることであり、そのためにはこのようなICT(情報通信技術)を活用することが必至であると思う。
     



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