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客員研究員・山川 鉄郎 アーカイブ フジサンケイ広報フォーラム エッセイ 2023/12/10
イスラエルとハマスとの紛争が多くの一般人を巻き込んで長期化することが懸念される。欧州でも親イスラエル、親パレスティナのデモが交錯して不安定な社会情勢となっている。
プラハで暮らしていた2015年には、パリ同時多発テロやシャルリー・エブド紙襲撃事件があった。当時テレビやネットで毎日のように見た言葉がある。「Solidarity(連帯)」と「Integrity(統一)」。人々はこの下に団結した。多様性を基礎とする欧州の大切な価値観で、EU形成の基礎となった汎ヨーロッパ運動の思想的背景として重みがある言葉だ。
この価値観は日本と無縁ではない。1922年に「汎ヨーロッパ」を出版してこの運動の先駆者となり、「EUの父」ともいわれる国際政治学者リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーは、東京生まれで、日本名を青山栄次郎という。母はクーデンホーフ=カレルギ―・光子。東京に駐在したオーストリア=ハンガリー帝国の外交官ハインリヒ・クーデンホーフ伯爵と結婚して海を渡った女性(日本名:青山みつ)である。
光子がハインリヒやリヒャルトと暮らしたロンスペルク城が、チェコに残されている。その後の戦乱のなかで荒廃してしまい、修復作業はなかなか進んではいない。ただ、彼女が当時使っていた身の回りの品は、近くのホルショフスキー・ティーン城に展示されていて見ることができる。
皮肉なことに、ロンスペルク城の荒廃もまた、過去の民族の争いと無縁ではない。この城があるボヘミアのポベジョヴィツェは、ドイツとの国境に近いズデーデン地方にある。ズデーデンは1938年のミュンヘン会談の結果チェコ(当時チェコスロバキア)からドイツに割譲された。第二次大戦後にチェコに返還されたが、そのとき居住していたドイツ人は追放されてしまう。この城の荒廃もまた、「Solidarity(連帯)」と「Integrity(統一)」という言葉の重みを感じることができる歴史の1ページである。
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