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    客員研究員・山川 鉄郎 アーカイブ フジサンケイ広報フォーラム エッセイ 2024/12/10
    語り継がれる 命のビザ
     チェコで大使をしていたある日の朝、仲のいいイスラエル大使のガリーから電話があった。突然だが今日つきあってほしい、会わせたい人がいるという。
     約束の時間に閉館中の戦争博物館を訪れると、入り口にパトカーが3台止まっていた。通常大使は公用車で移動するが、イスラエル大使だけはテロの可能性があるので、常に3台のパトカーで移動する。中に入ると、チェコのユダヤ人コミュニティが極秘に会合を開いていた。
     その場にいた軍服を着た老人をガリーが紹介してくれた。彼はもともとチェコに生まれたユダヤ人で、ナチスドイツが侵攻し、チェコのユダヤ人(「変身」などで知られるカフカもチェコのユダヤ人である)が危険になり国を逃れたという。実際膨大な数のユダヤ人が殺され、また収容所に送られた。ナチスの将校を暗殺したユダヤ人をかくまったとして住民全員が虐殺され消滅した村もある。
     「ナチスへの恐怖から私はプラハを脱出し、安全なところを求めてヨーロッパ中をさまよいました。そしてある噂を耳にします。カウナスの日本領事館に行けば日本へのビザがもらえるというものでした。私は必死でカウナスに行き、領事からビザを得て神戸にわたり、そこからカナダに移ることができました。」
     彼は英国軍に加わり、英雄的な働きをしていまはカナダに住んでいるが、久しぶりにチェコに戻ってきたという。
     「私がいまあるのはあの領事のおかげです。ぜひ日本大使のあなたにその感謝を伝えたかった。」と彼はいった。
     知識として杉浦千畝は知っていた。しかし彼の「命のビザ」で生き延びた人から直接、感謝のことばを聞くことは本当に感動的な経験だった。残念なことに、外務本省の訓令に反した杉浦千畝の名誉回復は2000年まで行われなかった。私は答礼のスピーチでそのことを話しながら、ことばに詰まった。任期中いろいろ貴重な経験をさせてもらったが、92歳の老軍人との対面ほど感動した経験はなかったと断言できる。



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